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1000人以上にがんを告知した医師が語る「がんで不幸にならない方法」

森山紀之医師インタビュー #1

2018/05/24
note

「手術の成功率は75%」と言われたときは

──「これからどうなる」ではなく、「これから何をすべきか」を考えることが「受け入れ」につながる?

森山 そうです。「これからどうなってしまうのか」と考えると、おそらく、際限なく悪いことばかり考えてしまうことになります。がんは深刻な病気ではありますが、すべてのがんが不治の病というわけではありません。「これから何をすべきか」に目を向けることで、先々のことを不当に恐れずに、がんと共に生きる人生を受け入れることができると思います。

 

──がんを不当に恐れずに受け入れるために注意すべきことはなんでしょうか。

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森山 今、インターネットやメディアなどでたくさんの情報が入手できますが、それらは必ずしも正しい情報とは限りません。まずは、がんについて正しい情報を事前に持っておくことを、私はおすすめしています。がんについて間違った情報を持つことが一番恐ろしいことです。人は、間違った情報により、間違った判断をしてしまうからです。

 たとえば、膀胱がんで亡くなった私の知り合いは、「人工膀胱になるのが嫌だ」と最後まで手術を拒否して亡くなりました。人工膀胱や人工肛門の性能が今すごく進んでいて、その方が思っているような「最悪の」生活にはならない、という正しい情報よりも、「人工膀胱でQOLが低下した」という不確かな情報を信じてしまったのでしょう。

 また、私たち医者は「100%確実」という言い方はできませんから、「手術の成功率は75%」というような説明をします。そうすると「4人に1人が死ぬってことですか?」とパニックになったり、「100%治ると評判の食材がある」と民間療法に頼ったりしてしまうケースも残念ながら少なくありません。

©iStock.com

──情報が正しいかどうかは、どうやって判断したらよいのでしょうか。

森山 まずは、情報の根拠が示されているかどうかを確認してください。がんに限らず治療は科学的根拠があることが大前提です。根拠が明示されていない情報は、信じてはいけません。それから、「絶対」「100%」「奇跡の」など、あまりにも強い表現が使われている情報も、疑ってかかるべきです。私が長年勤務してきた国立がん研究センターの「がん情報サービス」は、信頼性が高いサイトですから、ぜひとも活用していただきたいと思います。

もりやま・のりゆき/1947年、和歌山県生まれ。千葉大学医学部卒。国立がんセンターのがん予防・検診研究センター センター長、東京ミッドタウンクリニック健診センター長を経て、グランドハイメディック倶楽部理事、医療法人社団進興会理事長、医療法人社団ミッドタウンクリニック理事、医療法人社団勁草会理事、一般社団法人あきらめないがん治療ネットワーク理事。ヘリカルスキャンX線CT装置の開発に携わり、早期がんの発見に貢献。2005年に高松宮妃癌研究基金学術賞、2007年に朝日がん大賞を受賞。著書に『幸せながん患者』など。

写真=末永裕樹/文藝春秋

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