東京郊外の大型団地で育って、保育園から中学校までずっと一緒。途中、結婚したりして団地を離れた時期もあったけど、結局はまた親元に戻って団地の住人となった二人の女性の日常を描くドラマである。
愛称ノエチの太田野枝は大学の非常勤講師で、なっちゃんこと桜井奈津子は以前バリバリに売れていたイラストレーターだ。ノエチ役が小泉今日子。なっちゃんが小林聡美だ。
もう以前から大きな団地は夜は灯りがつかない空室も目立つし、昼に見かける住民は大半が高齢者だ。若者や子どもがいない巨大団地は寂しさが際だつ。
でもね、ノエチとなっちゃんは五五歳だけど、佐久間のオバちゃん(由紀さおり)からしたら、「二人とも小娘も同然」だ。
往復四時間かけて職場に通うノエチはストレスが溜まる一方である。
だけど団地に帰ると“小娘”だから、ちょっと嬉しいけど複雑な気分。ノエチは幸い両親(橋爪功、丘みつ子)も元気だけど、心と身体の疲れた日は、なっちゃんの家に直行する。料理上手のなっちゃんが作る野菜焼きや精進料理の美味しそうなことといったら。
夕食後に、二人してベランダで向かい合ってお茶を飲みながら、どうってことないお喋りに興じるその表情が良くて羨ましい。
ノエチが中学時代に好きだった春日部(仲村トオル)が、認知症の母とともに団地に戻った。
バレンタインのチョコを受けとってもらえず春日部には振られた。再会した三人がその話題になると、春日部が「俺、ノエチにチョコ貰ってないよ」。クスクス笑いだしたノエチ。
「あたしチョコ渡してなかった。なっちゃんに作って貰ったチョコを持って帰ったら、美味しそうでひと口。そしたら止まらなくって……全部食べたの忘れてた」
「ショック。俺、中学の三年間、ノエチのこと本気で片想いだったから」
いい話だねえ。珍しく最近団地に父親(塚本高史)と越してきた春菜ちゃんという十歳くらいの女の子がいてね。学校に馴染めない彼女が、彼らを見て「あの三人は同級生だったの? いいなあ」と呟く。
小学生が仲間に入ってきて、団地は少し活気が出てきた。子どもと高齢者。かつて夢の巨大団地と呼ばれた空間を舞台に、大友克洋は超傑作マンガ『童夢』を描いた。老人と子どもたちの超能力戦争だ。
二人の団地では、そんな殺伐とした事件は起きず、黄昏のなかで、お互いの駄目な性格、恥多き過去も知り尽くしたノエチとなっちゃんの毎日がときにユーモラスに描かれる。
黄昏の団地は、まるでユートピアのようだ。来年で昭和百年。おれたち昭和の子どもたちにとっては、まさに夢の団地だ。
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『団地のふたり』
NHK BS 日 22:00~
https://www.nhk.jp/p/ts/GZN1ZGJ52M/