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 玉の上部を角と桂で押さえる、絶好のマウントポジションだ。しかし、藤井は自玉が危険な状況でも、また1分将棋になっても常に敵玉を見ている。永瀬の玉頭に歩を叩いて王手、先手の陣形を乱してから△7一桂と自玉の下に桂を打つ。永瀬は金の位置をずらされ、自陣は修復がきかなくなった。詰めろをかけ続けることができれば永瀬勝ち。1回でも詰めろが消えれば藤井勝ちだ。

初勝利まであとわずかのはずだったが…

 容易に寄せきれそうに見えた藤井玉がしぶとい。これはどうだ? いや、金を寄られて続かない。これならどうだ? いや、連続王手の千日手で逃れてしまう。山崎らも加わり、やっとこさ捕まえる手順を発見した。しかし、大量に駒を渡すのでとても指しにくい。

 だが、永瀬にはまだ持ち時間が35分あった。じっくりと腰を落として考え込む。永瀬は自信がありそうな姿勢になっている。一方、藤井は負けを読み切ったようで、モニターを見た稲葉も「藤井さんの肩が落ちてきているように見えますね」という。

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 永瀬は1分将棋になるまで考え、寄せを決断する。金を藤井玉の斜め上から打って下段に落とし、さらに桂を連打して追い詰める。控室にどよめきが起きた。山崎が推奨した手で、終盤で価値の高い金と桂を渡して怖いが、これで寄っていると結論づけていた。これで最後の関門を突破した。「藤井さんの敗因を言うよりも、永瀬さんの時間配分が巧みでしたね」と稲葉。

控室での検討にも熱が入る

 だが、まだ終わっていなかった。

 △7二金と打ったのが相手を迷わす藤井の受け。永瀬としては、持ち駒を打つ手や、角を成る手とか、選択肢が多いが一筋縄ではいかない。

打ち下ろした先は、△9六香!

 永瀬は王手で角を成る手を選択し、持ち駒を連打して藤井の金銀を奪う。永瀬は寄せの第一歩である成香を捨てる手を含めて、金銀桂桂香香と、実に6枚もの駒を渡したことになる。それでも永瀬玉に詰みはない。

 さあ、今度こそ決着かと思いきや、稲葉が「玉を逃げると?」とつぶやく。それとほぼ同時に、藤井が△8二玉と逃げた。なるほど、この手もまたしぶとい。「将棋って難しいなあ」と稲葉がつぶやき、加藤と2人でうなずく。永瀬は馬を一路寄るが、これにより、自陣の守りとなる9六の地点への馬の利きが消えた。

 一応詰めろだけど、9筋に歩が打てなくなるとどうなるんだ? 藤井が下から△7九銀の王手で端に永瀬玉を追い、さらに香で王手するとどうなるのか?