80年代に女子プロレスブームを牽引した「クラッシュ・ギャルズ」。ライオネス飛鳥と長与千種の2人は、9月に配信されたNetflixドラマ『極悪女王』でも、悪役レスラー・ダンプ松本のライバルとして描かれた。
ここでは、プロレスをテーマにした数々の著作を持つライター・柳澤健さんの『1985年のクラッシュ・ギャルズ』より一部を抜粋して紹介。
「クラッシュ・ギャルズ」結成前、先輩や同期に冷たくされ「お払い箱」寸前だった長与千種が、エリートの飛鳥を相手に持ちかけた「禁じ手のない」試合。その意外な結末とは――。(全4回の2回目/続きを読む)
◆◆◆
飛鳥と千種、ふたりの決意
1983年1月4日、後楽園ホール。
この日のメインイベントはWWWA世界シングル王者ジャガー横田がジュディ・マーチンの挑戦を受けるというものだったが、それよりも遥かに重要な試合が前座としてひっそりと行われていた。全日本シングル王者のライオネス飛鳥に長与千種が挑戦した一戦である。
強いだけで退屈なレスラーという烙印を押された王者。
弱い上に魅力もない落ちこぼれの挑戦者。
しかし飛鳥と千種のふたりは、共に不退転の決意でこの試合に臨んでいた。
実力以上の何かを観客に、そして全女フロントの松永兄弟に見せつけない限り、自分たちに未来はないのだ。
リングに上がった時の千種の目はふだんとは違っていた、秘めたるライバル心が現れていたからだろう、とライオネス飛鳥は言う。
そして、おそらくは自分の目も同様であったに違いない、と。
ふだんと違うのは選手ばかりではなかった。
ふたりがリングアナウンサーからのコールを受けた時に、わずかではあったものの観客から紙テープが飛び、声援が送られたのだ。
意外な観客の反応に勇気づけられたふたりは、ゴングと同時に試合に集中していく。
張り手の応酬で始まり、やがて凄まじい蹴り合いへと変わった。相手の不意をついて顔面の急所にパンチを入れる、という種類の試合ではない。あくまでもプロレスの範囲内の試合である。ただし、渾身の力を込めて殴り合い、蹴り合うのだ。