80年代に女子プロレスブームを牽引した「クラッシュ・ギャルズ」。ライオネス飛鳥と長与千種の2人は、9月に配信されたNetflixドラマ『極悪女王』でも悪役レスラー・ダンプ松本のライバルとして描かれた。

 ここでは、プロレスをテーマにした数々の著作を持つライター・柳澤健さんの『1985年のクラッシュ・ギャルズ』より一部を抜粋して紹介する。

 落ちこぼれの千種がエリートの飛鳥相手に挑んだ「禁じ手のない」試合。勝ったのは飛鳥だったが、千種は天性の素質を開花させた。そして「クラッシュ・ギャルズ」の伝説が始まる――。(全4回の3回目/続きを読む

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クラッシュ誕生

 長与千種はひとり悶々としていた。自分のすべてを出し尽くした試合を経験した後では、これまでのような決まりごとの多い試合には何の刺激も得られなかった。

 千種は何度も飛鳥との試合を再現しようとしたがダメだった。

 試合への集中力と緊張感と覚悟が、自分と相手の両方になかったからだ。

 どうすればいいのか?

 長与千種は、その答えを持っていなかった。

 ライオネス飛鳥もまた、千種と同様に迷いの中にいた。

ライオネス飛鳥 ©文藝春秋

 千種と戦った全日本選手権がいい試合だったことは間違いない。観客の反応もよかった。しかし、だからといって自分の中の鬱々とした部分がすべて払拭されたわけではなかったのだ。

 それでも、千種とタッグを組む回数が徐々に増えていった。

「ここから何かが変わっていくかもしれない」

 聡明な飛鳥は、すでに自分の未来に差し込んできたかすかな光を感じとっていたのだ。

 1983年夏、全女の頂点にはWWWA世界シングル王座の赤いベルトを巻くジャガー横田が君臨し、ナンバー2としてオールパシフィック王座の白いベルトを巻くデビル雅美がいた。

 全女フロントが期待をかけた大森ゆかりは先輩のジャンボ堀とダイナマイト・ギャルズを結成、瞬く間にWWWA世界タッグ王者となったものの、爆発的な人気を得るには至らなかった。

 ついに松永国松は、年明けの後楽園ホールで好試合を演じたライオネス飛鳥と長与千種のタッグチーム結成を決意する。兄の松永高司会長の了承を得て、本格的にふたりの売り出しをはかった。