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寺島は「『一緒に頑張りましょう』という感じだった」

「それが嫌で、私は翌日頑張って初めて詐欺を成功させました。キャッシュカードには1日100万円の出金限度額があるので、1日に引き出せなかったお金は翌朝に引き出すことになる。それを『朝出し』と言っていました」(X子)

 掛け子の報酬は、騙し取った金の4%。また、詐欺総額が月1千万円を超えると、全員に50万円のボーナスが配られたという。

藤田容疑者と今村容疑者 ©時事通信社(フィリピン法務省提供)

「報酬はストックしていって、必要があるときに申請します。大石からテレグラムで『いくら必要か』と聞かれ、日本円で受け取っていました」(X子)

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 検察から「被告側は『犯罪組織かはわからず、電話していた』と主張しているが」と問われたX子は、次のように証言している。

「彼女は『一緒に頑張りましょう』という感じだった。(犯罪行為を)わかっていた感じです」

マニュアルに書かれていない手法の詐欺も

 X子の証言が浮き彫りにするのは、詐欺グループが寺島らに詐欺の“英才教育”を施し、彼女たちが積極的に関与していく様子だった。当時、彼らが得意としていたのが「現金キャッチ」と呼ばれる手法である。

「『キャッシュカードとは別に現金は家にありますか?』と尋ねて『金は偽札である可能性がある』と伝え、R(日本にいる受け子)が現金を持って帰る手法です」(X子) 

「現金キャッチ」は、前述したマニュアルに書かれていない。X子と寺島は幹部から「経験者から方法を聞いてこい」と言われ、掛け子の先輩に近付き、電話のやり方を学んだという。日本にいる受け子が現金を受け取る一部始終を目の当たりにすると、大石から「2人もこれができるようにやってほしい」と言われ、報酬を握らされたという。

 11月13日午前、ついに寺島は詐欺の月額1000万円を達成。大石が「おめでとう!」と寺島を労っていたころ、ホテル周辺は途端に物々しい雰囲気に包まれた。同日午後、フィリピンの入管当局は特殊詐欺に関わった容疑で日本人36人の身柄を拘束したのだ。

日本に強制送還された“ルフィグループ”の今村磨人容疑者 ©文藝春秋

掛け子としての黒いキャリアを重ねた寺島

「半分の人が拘束された。私と春日井さんは解放されましたが、パスポートは没収されてしまった。その日、春日井さんと一緒にタクシーに乗って(入管当局に)見つからないように南へ向かいました。辿り着いたホテルで1週間何もしないで過ごして、その後『また掛け子をする』というので、店を借り切って掛け子を始めました」(X子)

 X子は逃亡生活に嫌気が差し、翌2020年2月末に組織を抜け出した。日本大使館に行き、パスポートの紛失を届け出た上、オーバーステイの税金を納付し、同年3月に帰国。成田空港で待っていたのは逮捕状を携えた警視庁の捜査員だった。だが、寺島は詐欺グループを抜けることなく、フィリピンに留まり続け、掛け子としての黒いキャリアを重ねたのだ。

 X子がこうした証言をする間、寺島は一度も彼女を見ることはなく、過去の記憶に蓋をするかのように時折目を閉じた。近く予定される被告人質問で寺島は何を語るのか。間もなく裁判は佳境に差し掛かる。