全身を惜しげもなくさらけ出し、全身をもみしだかれる
29歳で是枝裕和監督からのオファーを受け、『空気人形』(09年)に主演。ペ・ドゥナの役はタイトル通りの空気人形、つまりダッチワイフだ。板尾創路演じる中年男の所有物で、オールヌードと濡れ場がこれでもかと登場するが、彼女は見事に“心を持った人形”を演じきった。
その空気人形がいつしか人の心を持ち、自分で行動できるようになり、ひとりの男性に恋をして……というストーリー。人気絶頂のさなかによくもまぁこの役を引き受けたものだと思うが、これも是枝監督の力量と情熱を理解してのことだろう。
普段はメイド服などキッチュな服を着ているが、プロポーションに美肌もあいまって等身大のフィギュアにしか見えない。
いざ行為となれば、なんのためらいもなく着衣を脱ぎ捨て、ベッドに横たわる。形のいいバストから腰、背中からヒップまで全身を惜しげもなくさらけ出し、全身をもみしだかれる。
途中でへそのあたりにある空気穴にポンプを差し込んで自分で空気を入れるシーンがあり、やや笑いを誘うが、足を不自然に曲げつつ全裸で座り、ポンプを差し込む様はエロティックを通り越してアートですらある。
30歳手前とは思えぬあどけなさで男に思うままに抱かれるその姿は“天使人形”そのもので、是枝監督が「この役を演じられるのはペ・ドゥナしかいない」と彼女を指名した真意がわかる見事なラブシーンだ。
完成披露記者会見ではこの過激な濡れ場について、
「韓国では女優のヌードシーンがあれば監督など数人しか立ち会いませんが、日本は違いました。周りには多くのスタッフがいてしばらく戸惑いました」
とあっけらかんと語り、会場の笑いを誘った。
セリフは少ないが、ペ・ドゥナは過去に“セリフではない形で感情を伝える”重要さについて話したことがある。
「演技をする時、特に国境を越えて何かを伝えようとする場合に大事なのは、すべての人間が持っている“心”というものが通じ合えるかどうかだと思います。もちろん、言語も大事ですが、心を伝えられるキャラクターかどうかを第一に考えます。日本の監督と組んだ『空気人形』や『リンダ リンダ リンダ』のときもそうでしたけれど、日本語があまりうまくなかったとしても、なんとか自分の気持ちを日本の観客に伝えようとしました」(「Cinema Cafe.net」のインタビュー)
ペ・ドゥナにとって韓国以外での映画出演は日本が初めて。「言葉に頼らない演技での世界進出」のきっかけを作ったことになる。