前回の『快盗ルビイ』以降、一九八〇年代の終わりから九〇年代の前半にかけての真田広之は、『病院へ行こう』『どっちにするの。』『継承盃』と、コメディ映画に次々と出演、それまでのヒーロー役のイメージを一変させていった。
今回取り上げる『僕らはみんな生きている』もまた、この時期に真田が主演した、傑作コメディ映画だ。
真田が演じるのは、ゼネコンに勤めるエリート技師の高橋。悪意なく相手の神経を逆撫でする失礼な言動をしてしまうタイプの、嫌みなまでに軽薄なキャラクターだ。いつもヘラヘラした感じが様になっていて、こういう役まで自然と演じてのける演技の幅広さに、まず驚かされる。
高橋が橋建設プロジェクトを売り込むため、南アジアにある架空の軍事政権国家・タルキスタンに出張するところから物語は始まる。前半は、支店長の中井戸(山﨑努)による現地案内を通して、貧富の差が激しいタルキスタンの実態が描かれる。といっても深刻にはならない。現地の現実に順応しながら暮らす中井戸と、全く馴染もうとする気配のないマイペースな高橋とのやり取りが軸になっており、山﨑と真田の息の合った軽妙な芝居もあいまって、コミカルなタッチで進行する。
中盤、物語は急展開を見せる。タルキスタンでクーデターが発生し、彼らは市街戦が行われる真っ只中に取り残されるのだ。これが若い頃の真田の役柄であれば、八面六臂の大活躍により切り抜けるところだが、もちろん高橋はそうではない。ピンチの連続にあって、ほとんど役に立たず、ライバル会社の技師(嶋田久作)に頼りきりなのだ。
山﨑・嶋田に加えてライバル会社の支店長役の岸部一徳の三人が織り成す、現地で働くサラリーマンのペーソスを感じさせる芝居が魅力的で、真田は怪優たちの引き立て役に徹しているようにも映る。
ただ、この映画はそれだけでは終わらない。密林を行く牧歌的な場面が続いた後、一行は長閑な村落にたどり着く。だが、村には政府軍の攻撃が。中井戸は村を守ろうと政府軍と交渉するも、そのため後から現れたゲリラにスパイと疑われ、拘束される。
そして終盤、熱い展開が待ち受ける。高橋はライバル会社の二人に、中井戸の救出を持ちかけるのである。その瞬間、真田はヒーロー時代の凜々しい姿に変貌していた。
それでいて、救出作戦の際には「軽い高橋」に戻っている。にもかかわらず、序盤の高橋とは違って実にカッコいいのだ。そして、最後は見事に三人に溶け込んでいた。
真田の千変万化の達者ぶりに、感嘆しっ放しだった。