1988年(96分)/東宝

 前回に続き、真田広之のフィルモグラフィを追いかける。

『吼えろ鉄拳』の大ヒット以降、真田は若手アクションスターとして大人気を博することになる。しかし、そうして得た「スター」の座に甘んじることはなかった。八〇年代半ばからは、主に現代劇でヒロイックではない等身大の役柄にも挑戦している。

 中でも和田誠監督との出会いは大きく、『麻雀放浪記』を経て、軽妙で喜劇的な芝居も開花させたのが今回取り上げる『快盗ルビイ』だ。

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 真田が演じるのは、マザコン風で内気なサラリーマンの徹。冒頭から近眼メガネをかけてボサボサ頭という、いかにも冴えない寝起きの姿で登場、それまでの二枚目ヒーローのイメージから程遠い様に驚かされる。しかも、無理に三枚目を演じている感がなく、トロくてボンヤリした雰囲気が実に自然と出ているのだ。ここだけでも、真田広之がアクションだけでなく「役者」としての表現力にも長けていることが伝わってきた。

 徹はマンションの上の階に越してきた謎の美女「ルビイ」こと留美(小泉今日子)に惹かれる。だが、彼女の裏の顔は泥棒だった。徹は流されるままに、留美の盗みの計画に巻き込まれていく。

 積極的で活動力あふれる留美と、情けないまでに気弱な徹。対極的な二人を演じる小泉と真田による、ツッコミとボケの芝居の呼吸も抜群で、ひたすら楽しい空気の中で物語は進行する。

 真田の喜劇芝居が見事なのはキャラクターとしての雰囲気づくりだけではない。バスター・キートンやチャップリンやジャッキー・チェンが示すように、際立った運動能力を駆使した身体を張ったアクションこそ、時代や国境を超えて笑いを巻き起こすことができる。その点でも真田は喜劇にも向いているといえる。そして、本作でまさにその能力が発揮されているのだ。

 たとえば、徹が自転車に上手く乗れない芝居。これを面白く伝えるためには、実は高度な能力を要する。自転車がランダムに動いていると見えるよう自在にコントロールしたり、そこから派手に転んだり――というスタント技術が必要な上に、それをわざとらしく感じさせない表現力が欠かせないからだ。もちろん真田には、お手のものである。

 他にも留美の頼みで恋人(陣内孝則)の家の郵便受けから手紙を盗み取る際の忍者のような動きなど、真田のアクションが見事にコメディとして昇華されていた。

 それでいて最後にはハンサムぶりも出ていて、最高にキュートな小泉とともにロマンティックな終幕を創出。役者としての幅を見せつけている。