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山本一郎×井上理 対談「なぜ個人で書き続けるのか?」【後編】

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勝手に記事が削除された

山本 某媒体としか言えませんが、寄稿した媒体と訴えてきた相手が勝手に和解しやがって、ヒヨってこのわたくしの記事削除しやがったことがあります。いや、消すは消すでしょうがない。最近は拡散したものまで整理しろって言われるケースも増えてますよね。たぶんスラップなんでしょうけど、フォロワー数×200円払えとか。困っているのであれば対応しないわけではないのに、訴訟だとか言うからこっちも戦闘ゲージがあがってくるじゃないですか。普通にご相談いただければいいのに。

井上 それは示談みたいな? 金銭で解決したり?

山本 いや、それやったら総会屋になっちゃうので。業界で顔見知りの会社でも記事を書くのですが、研究会で幹事なのでそこに研究費のお支払い相談の連絡をしたら、どこかの左翼がそれを聞きつけて「批判してる会社を脅して裏から金を取っている」とか言いがかりをつけてきたりします。本来は批判する先こそちゃんと取材しないといけないし、世の中100%悪い存在なんてないのだから、良い部分を見て付き合う、悪い部分は批判し叩くって当たり前のことだと思うんですけどね。

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徳力 どうですか、山本さんのこういうスタンス。

井上 いや、みんな山本さんのことをいろいろ、悪く言う人もいますけど。

徳力 実際悪いこともしてますよ、うちの会社も倒産しろとかいう記事を書かれて、社名で検索するとしばらくあれが1ページ目にっていう(会場爆笑)。山本さんは、やりすぎて自分のパンチの強さをときどき忘れることがあるんです。

山本 あれは本当に申し訳なかったです。最近はかなりマイルドにしてるんですよ。

ネットで書く、業界の単価をみんなで底上げしていきたい

徳力 最後に、これからの若手はどうすればよいのかということを聞かせてください。いまの若いひとはチャンスがなかなかもらえないから、WELQのひと記事1000円みたいなのを書かざるを得なくなる。でも書いたものに反応があるのは嬉しいからそっち側の安くても書きますみたいな人がどんどん増えて、ステマと結びついてしまうのは問題だと思うんですけど。

山本 しょっぱい話ですけど、私らが私らの時代の特性もあって、書きたいことを書いてはい上がってきた軌跡をいまの若い人に負わせるのは酷だし、同じようにやったら成功するぜとは絶対言えない。ただ、言えないからこそプリンシプルってやっぱりあって。まず最初に必要なのは、正しいと思いこめるものを書くこと。そして書く速度高めて書ける量を自分のなかで確保するという、この2つを折れずにやってみる。自分のなかに書くために集中する意識をもつというのはものすごく大事です。

徳力 量と質両方ないとだめなんですね。

 

山本 まずは量ですね。音声入力を使いながら書くスピードを速めるのも必須のスキルになってきたので、私の場合は30分で2000字がベーシックなところです。あとは見合う金額が支払われない現実にどこまで心を折らずに書き続けられるか。あるいはいろんな仕事があるいま、楽しくやりたいなら本業をもって、書きたいことは別でやればいいと。

徳力 井上さんはどうですか。

井上 僕はすごい遅筆なので速度を上げていかなきゃと思っているところです。あとはやっぱりフリーランスへの発注単価が低いので、安かろう悪かろうという現状は変わっていない。そうならないように、労働組合みたいなものを作って業界の単価をみんなで底上げしていきたいですね。

山本 組合、いいですね。物書きっていうのはダンピングされた、ものすごくアンフェアな業界で、食える職業になってないですからね。

徳力 お金儲けだけしたいのであれば、メディアよりも効率良い業界はいくらでもあると思いますけど、ちゃんと情報発信している人が正当なお金をもらえる業界になるといいですよね。

 

写真=平松市聖/文藝春秋

やまもと・いちろう/1973年東京都生まれ。作家、個人投資家。IT技術関連のコンサルティングや知的財産権管理、コンテンツの企画・制作に携わりつつ、介護と子育てと投資と研究に人生を捧げている。

いのうえ・おさむ/1974年静岡県生まれ。ジャーナリスト。日経BP社『日経ビジネス』『日経ビジネスオンライン』で電機・IT業界などを担当。著書に『任天堂 “驚き”を生む方程式』『BUZZ革命』。

とくりき・もとひこ/アジャイルメディア・ネットワーク株式会社代表取締役社長。ブロガー。NTTやIT系コンサルティングファーム等を経て、2006年にアジャイルメディア・ネットワーク設立時からブロガーの一人として運営に参画。

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