特定の媒体ブランドに依存しすぎるリスク
徳力 山本さんの原体験がパソコン通信であることはうかがいましたが、ブログを始められてからは何かありますか。
山本 他の出店に出してきたコンテンツを自分のブログから発信しなければ沈んでいくと確信したのは「アブラハム問題」(投資利回りの誇大広告)のときですね。逆にいまはもう、ブログだけやっててもダメだと思います。
徳力 どうすべきだと?
山本 昔は、自分の名前を冠した昔ながらのブログを拠点にして、頼まれた記事を外でちょいちょい書くというスタンスでした。しかし、個人ブログが世間の情報の中心ではなくなっていった。なので、培ったブログは捨て、自分の名前でいろんな媒体にポータルに出ていって、ネット上で常に一定の数、自分が書いた記事が流通しているという状態をキープすることが必要なんです。新しいものを読んでもらうためには、これまでのブランドと違う出店を用意して署名記事を書く。昔のSNSって文章の最初の部分が引用されましたよね。最初のころの記事を「山本一郎です」ではじめていたのはそういうことだったんです。
徳力 一巡して、個人サイトに限界がみえてきたと。
山本 ただし、ブランドに依存しすぎると自分が書いている意味がなくなるし、ブランドと書き手が一蓮托生の関係になってしまうと、ミクシィとかケータイ小説みたいに、そのジャンルやブランドの衰退とともに沈んでいくことになる。自己メディアで、自分の名前や興味、問題意識、持っている知識をより多く届けたいならツールのブランドにこだわるべきではない、だけど特定のツールに依存もしないというのがいまの結論です。
徳力 井上さんは独立されて、これからはさまざまな媒体に書かれていくわけですが、いかがですか。
井上 どの媒体がどうってことは、まだよくわからないので、「これ、どこに載せたい?」って、取材先に聞いてしまおうかと。
徳力 それは新しい手法ですね。個人でのネット系の発信は今はTwitterぐらいですよね?
井上 組織上、個人での情報発信は制限されていたんです。そのせいもあって、すごくめんどくさくなって、リツイート以外はいっさいやめました。
山本 私なんて「リツイートするな」って向こうから言ってくるんですよ。あなたにリツイートされるとクソリプを寄越す奴がいっぱいやってきて、自分が望まない方向にいくのでやめてくださいって(会場爆笑)。
「イェーイ、内容証明届きましたー」って
徳力 実名を出すことへの恐怖心のようなものはありませんか。
山本 それに慣れてしまった自分が怖いです(笑)。脅迫状とか怪文書なんて月2回はあります。
徳力 以前、ブロガーの飲み会にいつもどおり遅れてきた山本さんが、開口一番封筒を取り出して、「イェーイ、内容証明届きましたー」って(会場爆笑)。にしても月2回はちょっと多くないですか?
山本 むしろ横ばいで、安定してきた状態。肝を冷やしても勉強になったのは、木村剛さんの日本振興銀行やインデックスグループの循環融資や企業乗っ取り、地上げなどの嫌疑を書いた記事のときですよね。訴訟するぞと内容証明がきたんですけど、たぶん向こうはこちらのバックグラウンドを知らないから脅せば押さえこめると思ってるんですよね。こちらとしては脅されたネタでもうひとつ記事が書けるから、むしろ万歳ですよ。ただし、普通に記事を書かれる方は名前は出しても自宅の住所と勤め先、このふたつは絶対に出さないほうがいいです。