「経営者は馬とフェラーリは買うな」とは、若き日のサイバーエージェント・藤田晋が、先輩経営者のUSEN・宇野康秀から受けた忠告である(注1)。これが広く知られるようになるのはライブドア事件のときで、堀江貴文が馬もフェラーリも買っていたからだ。あるいはフサイチコンコルドでダービーを制した馬主・関口房朗は、その勢いで経営する会社で競走馬事業を始めようとして、社長を解任されている。

2017年、日本ダービー ©杉山拓也/文藝春秋

馬主・田中角栄もダービーオーナーになれなかった

 かように競走馬を持つことは、ひとを狂わせるほどのロマンであり、ダービーはその頂点の時であるらしい。

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 その価値を語るのによく引き合いに出されるのが、チャーチルの言葉「ダービー馬のオーナーになることは一国の宰相になるより難しい」である。日本では「ダービーはカネでは買えない」とも言われ、さしもの田中角栄も、首相にまで登りつめ、妻名義の馬でオークスを勝ちはしたが、ダービーには縁がなかった。それほどのことを県議会議員にしてなしたのが、サニーブライアンの馬主・宮崎守保(当時埼玉県議)であったりもする。

1997年、第64回日本ダービー優勝馬 サニーブライアン ©石川啓次/文藝春秋