小林旭と浅丘ルリ子の“恋の終わり”
船に乗って遠くへ行く小林を悲しげな表情で見送る浅丘。函館港で撮影された映画のラストシーンは、2人の恋の終わりを暗示していた。浅丘は当時をこう振り返っている。
〈私と旭さんとの関係は徐々に疎遠になっていく。旭さんがひばりさんと急速に仲良くなるのはその後のことだ。
ひばりさんが楽屋で旭さんにお弁当を差し入れるのを見ていたので「へえ、2人は付き合っているんだ……」とうすうす感づいていた。だから私とは自然消滅。ひばりさんが私から無理やり旭さんを奪ったわけではない〉(前掲書)
小林とひばりは雑誌で対談する前にも、コロムビアのスタジオですれ違ったことがあった。しかし、当時の小林にとって、ひばりは幼い頃から芸能界で活躍するスター歌手。尊敬の念は抱いても、女性として意識する存在ではなかった。
対談はひばりが定宿にしていた代々木の割烹旅館で行われ、取材が終わると彼女は小林に笑顔でこう語りかけた。
「小林さんって、遠くで見ると不良青年みたいだけど、喋ってみると全然違うので驚いちゃった」
距離が縮まる小林旭と美空ひばり
気さくな人柄に小林も惹かれ、その日から2人の距離は縮まった。
〈しのびつつ人目をさけて映画見し いつかは晴れて来んとぞ思う〉
ひばりは切実な思いを短歌に託し、小林への手紙に綴った。映画『ウエスト・サイド物語』を肩を寄せ合って観た時も、ナイトクラブで踊る時も、人気者同士の2人は周囲の目を気にして常に変装しなければならなかった。
互いに過去の恋愛のことを打ち明け、秘密を共有した。先に告白したのはひばりの方だ。
「色々なことがあったわ。でも、これからはその色々なことを、すべてあなたのためによい方向に進めていきたい……」
積極的な彼女の行動は、言葉よりもさらに雄弁だった。
「付き合い始めの頃はすごかったよ。誰にも居場所を告げてないのに、どういうわけか行く先々にひばりから電話がかかってくるんだ。周りの人からも『お嬢がさみしがっていますよ』なんて言われて、ことあるごとに呼び出された。
真夜中に仕事の応援に来てほしいと言われたり、逆に俺が地方で撮影していると、わざわざおしるこを差し入れてくれたこともあったね。『好きなの』、『結婚しましょう』と、圧倒されるくらいの勢いで、次第に俺もそういうものかなと思うようになったんだ。
幸せなことには違いないが、本音を言えば、枠にはめられるような不自由さを強いられることには複雑な思いもあった。3人娘と呼ばれた江利チエミと雪村いづみが立て続けに結婚して、残るは“お嬢”という状況だったから、ひばりのおふくろさんも、婿さんを探すことにシャカリキになっていたと思う」