このシステムこそ、現在の社名にもなっているFULL KAITENの原型なのだが、その素晴らしい導入効果を実感していた宮本の中に、新たな野望が芽生えることになった。
「これは行けるで、と思ったんです」
宮本はバイヤーとして仕事をする中で、多くのメーカーが在庫に悩んでいることをキャッチしていた。どのメーカーも、まさに「売れ筋」と「死に筋」と「中間」をどうやって分類すればいいかに悩み、仕入れの数とタイミングの決定にも苦労していた。
「大手さんになると、本社と倉庫が離れているので、在庫の状況を見に行くことすら難しい。多くのメーカーさんがエクセルで在庫の数量を把握していますが、エクセルはどの商品が売れ筋か、死に筋かなんて教えてくれません。販促をかければ売れる中間の商品が、倉庫の片隅で誰にも気づかれずに眠り続けているなんてこともよくあるわけです。言い換えれば、これまで在庫を管理するシステムはあっても、在庫を分析するシステムはなかった。私が仕入れ先でべびちゅで使っているシステムの話をすると、みなさん『そのソフトを売ってほしい』とおっしゃるので、これは行けると思ったんです」
IT業界の仕事が嫌で起業したのに…
2016年の暮れ、宮本は瀬川にシステム自体の販売を提案した。
言うまでもなく、瀬川の返事はノーだった。
「僕はIT業界で誰も笑顔にしない仕事をやっているのが嫌で起業したんです。なのに、もう一度ITの世界に戻るなんて、それは僕のやりたいことではありませんでした」
宮本は食い下がった。
「これまで、こんだけ辛い思いをして笑顔を失くしていたうちらが、このシステムのおかげで笑顔を取り戻したんやないの。そのことは自分自身が一番よくわかってるでしょう? 在庫を抱えるビジネスをやっている会社の社長さんで、在庫に悩んでいない人なんてひとりもいない。だったら、このシステムでたくさんの社長さんを笑顔にできるやんか。それに、べびちゅ以外に、もう一本事業の柱を持っていたほうがいいんとちゃう?」