2006年1月、ライブドア代表取締役社長の堀江貴文氏(当時)が、証券取引法違反の疑いで逮捕された。虚偽があったとされたのは、2004年9月期の決算報告として提出された有価証券報告書である。
粉飾決算から逮捕までのあいだにも堀江氏は、ニッポン放送の株を握ってフジテレビを買収しようするなど、様々な形で世間を騒がせていた。
ここでは、ネット起業家たちの軌跡を追った杉本貴司氏のノンフィクション『ネット興亡記』(日経BP)から一部を抜粋。買収騒動でフジテレビから1500億円近い現金を得た堀江氏が、次なる挑戦の舞台に選んだのは意外なことに“政界”だった――。(全3回の3回目/最初から読む)
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「選挙に出たい」
まとまった資金を得た堀江とライブドアは、次にいったいどんな奇襲をしかけてくるのだろうか――。その出方に注目が集まるなか、堀江が選んだのは、誰もが思いも寄らない選択肢だった。フジテレビとの攻防戦から4カ月ほどが過ぎた8月19日、堀江は唐突に衆院選に出馬すると表明したのだ。
時代の寵児と呼ばれ、メディアの支配まで目論んだIT起業家の意外過ぎる転身である。
メディア事業戦略室長兼副社長ながらフジテレビとの攻防戦を経て、すっかり堀江の秘書役のようなポジションとなっていた園田(編注:園田崇。ライブドアの元メディア事業戦略室長兼副社長)には、予感があったと言う。
それは衆院選への出馬表明から遡ること1カ月近く前の7月25日のことだった。この日、堀江と園田の姿は、東京・味の素スタジアムのスタンドにあった。「銀河系軍団」と称されたスター集団、レアル・マドリードのプレーをひと目見ようと集まった約3万人の観衆の中にいたのだ。堀江のお目当てはレアルのスーパースター、ジネディーヌ・ジダンだった。
サッカーに関心がない堀江がなぜジダンなのか――。実はこの時、ライブドアはJリーグのベガルタ仙台を買収しようと、水面下で動いていたのだ。
大株主である宮城県や仙台市とも交渉を進めていた最中だった。前年にはプロ野球への参入が頓挫したばかりだったが、スポーツビジネスが持つ広告の力を目撃して、メジャースポーツへの参入に並々ならぬ執念を見せていたのだ。どうせJリーグに参入するなら、世間にインパクトを残したい。そのためには誰もがあっと驚くようなスター選手を獲得するのが手っ取り早い。堀江がリストアップしたのが、レアルのスーパースターであるジダンだった。
この試合、明らかにワールドツアーの疲れが見えるレアルは精彩を欠き、東京ヴェルディに3対0で敗れた。ジダンやロナウド、ベッカム、ラウールといったスター選手たちも後半になると次々とベンチに引っ込んでしまった。
消化不良気味の試合を見届けた帰路の車中でのことだ。ラジオから当時の首相、小泉純一郎が推し進める郵政民営化に関するニュースが流れてきた。沈黙に耐えきれずにいた園田は、なんの気なしに堀江に聞いた。
「民営化をどう思いますか」