2006年1月、ライブドア代表取締役社長の堀江貴文氏(当時)が、証券取引法違反の疑いで逮捕された。虚偽があったとされたのは、2004年9月期の決算報告として提出された有価証券報告書である。

 逮捕までのあいだの数年間、堀江氏はプロ野球の大阪近鉄バファローズを買収しようとしたり、政界進出に失敗したりと、様々な形で世間を騒がせていた。

 ここでは、ネット起業家たちの軌跡を追った杉本貴司氏のノンフィクション『ネット興亡記』(日経BP)から、ライブドアによる「ニッポン放送買収」騒動の裏側について抜粋する。堀江氏の本当の狙いとは——。(全3回の1回目/続きを読む

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堀江貴文氏 ©文藝春秋

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ニッポン放送を狙え

 一連の会計操作の結果、ライブドアは2004年9月期の経常利益を、前年度と比べ3.8倍となる50億3400万円とし、目論見通りに「急成長ぶり」を見せつけた。これが粉飾決算として証券取引法違反の疑いで東京地検特捜部の強制捜査を受けるのは、この決算から1年3カ月ほど後のことになる。

 粉飾決算の実態は、この段階で誰にも気づかれずにいた。堀江とライブドアは近鉄球団の買収とプロ野球参入には失敗したものの、年が明けて2005年になると、ますますスポットライトを浴びることになる。

 2月8日、ライブドアは時間外取引を利用してニッポン放送というラジオ局の株式の35%を握ったと発表したのだ。狙いがニッポン放送の先にあるフジテレビであることは、誰の目にも明らかだった。

写真:Gengorou/イメージマート

 売上高も時価総額もフジテレビと比べてはるかに小さいラジオ局のニッポン放送が出資関係だけを見れば、フジテレビを中核とするフジサンケイグループを牛耳っているという、おかしな「資本のねじれ」に注目したものだ。

 なぜニッポン放送が資本構成上、フジサンケイグループの扇の要となっていたのかについては、フジサンケイのお家事情によるものだが、ここでは説明は割愛する。フジテレビにとっても資本のねじれの解消は長年の課題だった。

 このねじれ問題について、以前からフジサンケイグループ各社の首脳に「おかしい」と説いて回っていたのが村上ファンドを率いる村上世彰だった。村上は2001年ごろからニッポン放送の株を段階的に買い増していき、20%近い株式を握る筆頭株主となっていた。

 フジテレビ側もようやく動き、2005年1月17日にニッポン放送にTOB(株式公開買い付け)を行い、これが成立すれば50%以上を出資して子会社化すると表明していた。

 誰もがこれでようやくフジテレビとニッポン放送の資本のねじれが解消されると思っていた矢先に、ライブドアが時間外取引を利用して電撃的に両社の間に割って入ってきたわけだ。