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 村上は桂木との面会直後に、ファンドの部下に売買停止を命じたという。この時点でインサイダー情報を得たと認識したとの主張だ。

「宮内さんが『そら行け、やれ行け、ニッポン放送だ』と言うのは『聞いちゃったでしょ』と。聞いちゃったと言われれば、聞いちゃってるんですよね」

「村上裁判」の判決

 2006年6月5日、村上が逮捕される直前に東京証券取引所で開いた記者会見で、村上自身が苦笑いを浮かべながらこう述べる姿が何度もテレビで報じられた。この発言はインサイダー取引が疑われることになる11月8日の会談での一幕のことを指している。新聞やテレビでは「容疑を大筋で認めた」と一斉に報じられた。先述した通り、村上は「聞いたことは聞いた」が、この時点ではライブドアがニッポン放送の買収に踏み込むことはない、との判断だったという。

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 繰り返し流された「聞いちゃった」という映像から、村上本人が公の場でインサイダー取引を「自白した」かのような印象を与えるが、実際は判断が分かれるところだろう。「インサイダー」の材料となるライブドア側の最高財務責任者である宮内自身が、後にこう明言している。

「外形的な事実からはインサイダー取引の疑いが濃くなるのだろうが、私の個人的な感覚では、11月8日の時点で、(ライブドアによる)ニッポン放送株買収の環境が整ったという気はまったくしていなかった。それを実現するための準備は整っていなかった。したがって、この時点でいくら外形上の条件が整っていても、インサイダーにはあたらないと思っている」

 ちなみに、村上がライブドアにニッポン放送株の取得を持ちかけながら、後に売り抜けて利益を得たことを、宮内は「ハシゴを外された」、あるいは「裏切られた」と述べている。ライブドアは村上ファンドの出口戦略に使われたとも言う。これらの言葉からは村上の行動に対する嫌悪感さえうかがえる。

 その宮内が「焦点となる11月8日時点でインサイダーは成立しない」と考えていることは非常に興味深い。「インサイダー取引を意図したわけではない」という村上の主張を裏付けることになるからだ。

 実際、判断の難しい裁判だったようだ。「村上裁判」では一審から最高裁まで一連の事態のどこまでをインサイダーと見るべきか、裁判所の判断が揺れ続けた。最終的には懲役2年(執行猶予3年)の判決が下された。

 村上は「今でも判決に違和感はある」としつつも、「法治国家でフェアな手続きで争って負けたんです。それがすべてですよ」と淡々と振り返る。

 日本に突然現れた「物言う株主」の村上は裁判で敗れた後、シンガポールに移住した。ゴルフをしてもジョギングをしても気持ちが晴れることはなかったと言う。