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 フジテレビ側は堀江が提案した提携の申し入れを拒否し、ここから劇場型と呼ばれたニッポン放送を巡るM&A攻防が始まった。

「もう詰んでますから」

「想定の範囲内」

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 フジテレビが反撃の手を繰り出しても平然と言ってのける堀江のセリフは、さかんにテレビで取り上げられ、流行語となっていった。

フジテレビ買収の本当の狙い

 そこまでしてテレビに固執した理由は単純だ。前年のプロ野球再編騒動で、テレビが持つ広告効果を身をもって実感していたからだ。粉飾決算の疑いが発覚して以降、ライブドアには「虚業」のレッテルが貼られたが、実際にはポータルサイト事業が徐々に立ち上がり、ヤフーの背中を追い始めていた。

 当時のライブドアは社内からの「上納金」に頼り実質的には赤字体質だが、ある時点まではユーザー数の獲得を優先させるために赤字には目をつぶる根気強さが、ポータルサイトのようなプラットフォーマーの戦い方の定石である。ライブドアもユーザー獲得とそのための新サービスの開拓を優先させていたのだが、この当時はその意図が一般に理解されることはほとんどなかった。

 堀江はプロ野球再編でのメディア露出について、100億円もの広告効果があったと語る。実際、この1年間のライブドアのユーザー数の伸びは、他のネットサービスを圧倒していた。堀江も筆者の取材にこう答えている。

©文藝春秋

「(近鉄球団買収に)手を挙げたら、もうフィーバーですよ。球団買収ってある程度はすごい騒ぎになると思っていたけど、『ここまですごいのか』と思いましたね。それこそ想定以上。手を挙げるだけで、もう十分に効果があった」

 ネットレイティングス(当時)という調査会社の調べでは、球界参入騒動が一段落した2004年11月時点でのライブドアのアクセス数は382万人で、1年前と比べて5.5倍に急増していた。これは家庭のパソコンからの来訪者数なので、法人回線経由を含めればアクセス数はさらに膨らむことになる。

 そこで目を付けたのがフジテレビだった。目的はライブドアの知名度を高めることだ。球界再編騒動のさなか、堀江はこう考えたと著書『我が闘争』で書き記している。

「ライブドアの知名度をさらに上げるために、テレビメディアと直接的に関わる方法がないものか。はっきり言えば、テレビ画面にライブドアのURLをできるだけ長い時間表示するために、できることはないだろうかと考え続けていた」