村上ファンドの誘い
実は堀江も早くからニッポン放送とフジテレビのねじれ関係には気づいていた。
オン・ザ・エッヂ時代に経験した上場を機に、それまでは「ギーク」側の人間だった堀江が、株式会社の仕組みや株式市場について関心を持ち始めた2000年のある時、なにげなく手に取った『会社四季報』で「フジテレビジョン」のページに目をとめた。「なんだこれ」と思ったのが、その資本構成のいびつさだった。
ニッポン放送を買えば、なぜかより高価なフジテレビがついてくるじゃないか―。驚きの発見だった。ニッポン放送は上場している。つまり市場からその株を買うのは自由で、常時「売り」に出ている状態だ。だが、当時のオン・ザ・エッヂでは手が届くわけがなく、「単なる夢物語」と諦めざるを得なかったという。
この時の「夢物語」が正夢になるかもしれないと堀江にささやいたのが、村上ファンドを率いる村上世彰だった。
堀江は村上が「フジテレビに興味ない?」と聞いた口調を「まるで今日これからうちに来ないかという調子」だったと振り返っている。
村上がライブドアに正式にニッポン放送株の取得を持ちかけたのは、2004年9月15日のことだ。村上はライブドア幹部に「N社について」という資料を手渡した。N社とはニッポン放送のことだ。そこには村上ファンドが18%近い株式を保有していることが書かれていたほか、ある外資系投資ファンドも村上側につく考えがあるという。
村上の狙いはニッポン放送とフジテレビに対して資本のゆがみを是正するための圧力をかけることにある。この来訪の半年前にあたる2004年3月末時点で、そのためなら「プロキシーファイトを真剣に検討する段階に来ていた」と回想している。
そのために、村上はライブドアにもニッポン放送株を買わないかと持ちかけたのだ。この時点ではライブドアに保有株を売る約束などはしていない。
続く11月8日、ライブドアは堀江と宮内(編注:宮内亮治。当時のライブドア取締役)が同席した会議で、村上に対してニッポン放送株を買う意向を伝えた。結果から言えば、村上はこの「インサイダー情報」を聞いたにもかかわらず、その後もニッポン放送株を買い続けて売り抜けたとして、証券取引法違反に問われた。
村上の見解では、ライブドアの資金力から考えてこの時点で本当にニッポン放送株の買い占めに踏み切ることは不可能との判断だったという。村上ファンドが会議の後もニッポン放送株を取得し続けたのは、以前からの買いの延長だったというわけだ。前述の通り、村上ファンドの保有株は、2005年に入ると約18%から20%近くに上昇している。
村上に改めて当時の経緯を聞いたところ、翌年2月初めに米リーマン・ブラザーズ日本法人社長の桂木明夫が村上のもとを訪れてライブドアの資金調達に協力している旨を伝えたという。これはもう、明らかにライブドアがニッポン放送を買収しようと動いているという証拠となる。