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――いろいろあったことで、久実ちゃんにいい意味で影が出来たというか、人としての厚みを感じるようになりました。

吉永 久実は、家族に大事にされて育ってきて、ずっと「守られる側」だったんですよね。離れている7年の間に、子供を持つことで、はじめて「守る側」になって、やっと一人で立つことを学んでいったというか……あの状態のまま、一ノ瀬と結婚してもうまくいかなくなったんじゃないでしょうか。

 それは一ノ瀬も同じで、彼もやっぱり山を諦めるといって諦めきれない。人に自分の感情を話すのが苦手で、「謎男」だったところから、10年ほど会社で働いて、社会的なつながりを学んでいた。

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 そうやって、お互いがそれぞれの人生を歩んだうえで、やっぱり二人でいないとダメだ、ってならないと、本当のハッピーエンドとは言えないんじゃないかと思ったんです。

――7年の間、久実ちゃんが犬丸と結婚生活を送っていたのも驚きですが、一ノ瀬がずっと久実ちゃんのことを引きずっているのも意外でした。

吉永 別れた当初は一人になってほっとしてしまう自分もいたと思うんですよ。でも、一ノ瀬は、家庭の温かみを知らずに育ってきたでしょう。知らず知らずのうちに、久実がもっている「普通の家庭の温かさ」みたいなものに触れてしまって、それがなくなったというのはすごくつらいことだったのではないでしょうか。

 別れたあとも無意識のうちに、考え方がどこか久実を基準にしてしまっているというか、彼女が心身にしみ込んでいるんですよね。だから再会して、心と体が久実から離れていないということを一気に自覚してしまう。

『薔薇色に染まる頃』

――一ノ瀬が、久実ちゃんとの時間を真空パックされたかのようになんでも思い出してしまうところが、切なくもあり、希望でもありました。もう一人のまさかの登場人物が、犬丸さん。前作で役人でありフィルムコミッションの担当者として現れましたが、まさか今作にも登場するとは思いませんでした。