イタリアの映画監督ジョヴァンニは新作の製作に取り掛かっていた。1956年、ソ連のハンガリー侵攻を機に揺れ動くイタリア共産党員たちを主人公にした物語だ。だが若いスタッフや俳優とはまったく話が通じず、さらに製作資金の不足が判明。プロデューサーで妻のパオラからは離婚を切り出され、ジョヴァンニの人生は大きな危機を迎えることに。『息子の部屋』(01)のナンニ・モレッティ監督の新作『チネチッタで会いましょう』は、映画製作をめぐる物語で、彼らしい皮肉と風刺に満ちたコメディ。

「当初は(劇中劇である)50年代の物語だけで1本の映画を撮ろうと思っていたけれど、それは一度脇に置いて、前作『3つの鍵』(21)を先に撮りました。再び脚本家と話をするうち、一人の監督の人生をめぐる物語も一緒に盛り込みたいと思い始めた。そこで現代の視点を中心にして、ジョヴァンニという映画監督の人生を見せながら過去の話を語ることにしました」

ナンニ・モレッティ監督

 ジョヴァンニを演じるのはモレッティ本人。時流についていけず若者への不満ばかり口にする厄介なベテラン監督は、自身を投影した姿なのか。

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「まあそうでしょうね。これは現実についていけず居心地の悪さを感じている男の話です。彼は、今の人たちの行動や考えにうまく適応できない。しかもずっと仕事のことだけを考えていたために、隣にいる妻のことも過小評価し、その存在に重きを置いてこなかった。だから仕事に大きな危機が訪れると共に、夫婦関係も崩壊してしまうのです」

 妻がプロデュースする若手監督の現場で延々と説教を繰り広げ、映画を商品としか見ないNetflixの製作陣に呆れ返ったのも実体験なのか。

「私が他所の撮影現場に入り込んで撮影を止めたりなんてするわけがないでしょう? これはあくまで映画です。あのシーンでは、こういったジョヴァンニの行動が重大な結果を呼び起こすと同時に非常にコミカルであると表現したかった。とはいえ、Netflixの仕事の仕方に関しては私もジョヴァンニと全く同意見ですね。彼らの考えが、私たち“作家”の映画の作り方とまるで違うのは明らかです。これはAmazonやApple、ディズニーにも同じことがいえます」

『親愛なる日記』(93)でのベスパの代わりに電動キックボードに乗ったりと、過去作を思わせる場面がたっぷり。過去への郷愁と時代の変化を表したかに見えたが……。

「たしかに車の中で突然歌い出したり撮影所でダンスをしたり、キックボードに乗ったりしますが、なぜと言われても説明はできない。ただそういうシーンを撮りたかったからとしか言えません。自分でも理由がわからないんです」

 何を聞いても、真面目な顔で「説明できない」と繰り返す監督だが、「ラストシーンはフェリーニのある映画へのオマージュでは」という質問には「もちろん」と即答した。

「ある種の名作というものは、そんなつもりはなくても自然と自分の作品の中に入ってきてしまうものです」

Nanni Moretti/1953年、イタリア生まれ。監督・俳優として活躍し『親愛なる日記』(93)でカンヌ国際映画祭監督賞、『息子の部屋』(01)で同パルム・ドールを受賞。その他の監督作に『ローマ法王の休日』(11)、『3つの鍵』(21)など。

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映画『チネチッタで会いましょう』
11月22日公開
https://child-film.com/cinecitta/