最新作『グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声』が公開中の巨匠リドリー・スコット監督。昨年、同監督による歴史スペクタクル超大作『ナポレオン』が劇場公開された際、より長いバージョンが配信されるという噂があった。劇場版の上映時間は2時間38分。配信版がさらに長尺なら、さすがに冗長ではあるまいか……。ところが、48分間の未公開映像が足されて配信された『ナポレオン:ディレクターズ・カット』(Apple TV+他で配信中)を観ると、むしろ劇場版が不完全で、3時間26分に及ぶ配信版こそが“決定版”と思えるほど、作品に対する印象がガラッと一変してしまうのだ。
追加されたのは主に前半。後にナポレオンの妻となるジョゼフィーヌが彼と出会うまでの過酷な半生を描いたシーンだ。貴族の元夫はフランス革命でギロチンに処され、彼女も監獄へ送られる。同じく投獄された貴族の女性が言う。
「子をはらめば処刑が免除されるの……子を産むまでね」
淑女らしく死を受け入れるか、誇りを捨てて生きるか。彼女は長い髪を自らバッサリと切り落とし、監獄で男に抱かれる。やがて恐怖政治は終わり、釈放された彼女は自宅で愛する子供たちと再会を果たす。劇場版はこの一連のシーンを丸ごとカットしていた。その後は権力者の愛人となり、男を利用し、利用されながら生きていく。過酷な前半生を見ていることで、ただ奔放に生きているのではない、彼女の苦悩や覚悟が伝わってくる。
ある日、そんな彼女の前に若き将校ナポレオンが現れる。彼女に一目惚れしたその男は他の男たちと違い、真っ直ぐな愛情を注いでくる。監獄で生きるために不貞を繰り返したことを告白しても動じない。配信版は、ジョゼフィーヌとナポレオンの関係性がより際立つ物語へと昇華している。
ラスト、ナポレオンの最期の言葉もより深く心に沁みる。
「フランス……、陸軍……、……ジョゼフィーヌ」
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『ナポレオン:ディレクターズ・カット』
https://tv.apple.com/jp/movie/umc.cmc.gtk0q9t2mapcjs75d31vvrs2