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崩壊の予兆「N95マスクの備蓄がない」

こども医療センターのガバナンス崩壊の予兆は、コロナ禍が始まったばかりの2020年春だった。「衛生用品~マスク・手指消毒品・使い捨てエプロンなどが不足しているので寄付してほしい」というお願い文がこども医療センターの医師であるT氏のブログに掲載されていた。こども医療センターの患者家族がよく見るサイトである。

これを知り、私が早速こども医療センターへ視察に行くと、確かに看護師がノーマスクで働いていた。驚いて、在庫などの調査依頼をしたところ、他県のこども病院に比べて衛生用品の備蓄があまりにも少ないことが分かった。

衛生環境を最大限に守らなければならない難病の小児が入院する病院なのに、N95マスクの在庫がほとんどない。しかも、ネット上で衛生用品の寄付をお願いしている。このことが、この病院の危機管理体制はどうなっているのか?と疑い始めるきっかけとなった。

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運営主体である機構の会議で、理事に「機構本部としても衛生用品の確保に努力してほしい」と発言してもらったが、「各病院対応になっているから」という理事長の一言で片付けられてしまった。

温泉などで発生するレジオネラ菌が発生

そこで、県の医療部門担当の副知事に対し、こども医療センターの医師らが衛生用品不足を何とかしてもらいたいと直訴する機会を設けた。その結果、副知事の努力もあり、少しずつ在庫も増えて「ノーマスク、ノーエプロン、ノー消毒液」という状態は避けることができた。

こういった基礎的衛生用品の在庫管理などに代表される衛生管理能力の欠如が、直後に発生した院内レジオネラ肺炎(※1)やCRE(カルバペネム耐性腸内細菌科細菌)伝播の遠因になったと指摘せざるを得ない。

※レジオネラ菌で汚染された水しぶき、噴射水、散布霧からエアロゾルを吸い込むことで感染する。高齢者や小児が感染すると死に至ることがある。レジオネラ菌は給水・給湯設備、冷却塔水、循環式浴槽、加湿器などに検出される。