助けを求めるハードルの高さ
さて、メンタルヘルスの大切さが以前よりも語られるようになってきたものの、助けを求めるためのハードルは未だ高いと感じられる方が多いのが現実です。冒頭に述べたようにハラスメントなどの被害体験と絡まっていることも少なくなく、そのような状況では、さらに声をあげたり、相談することへのハードルが高いのは言うまでもありません。
特に我々日本人は心が辛いときも「我慢」を美徳とし、精神的な悩みは「弱さ」と結びついていると捉えがちなようです。その結果、自分自身が「弱い」あるいは「クレイジーだ」と思われることを避けるために、辛い思いをやり過ごし、助けを求めない傾向にある。これは誰にでも思い当たるところがあるのではないでしょうか。
必要な時に助けが求められないのはありふれたことに思われて、その実害は無視できません。調査によると、自死者の総数はG7のなかで複数年にわたって日本が一位。カウンセリングなどのメンタルヘルス専門家受診率はアメリカやイギリスなどの西ヨーロッパ諸国ではほとんど50%を超えるのに比べて、日本ではわずか6%ほどにとどまるのです。他の先進国と比較して圧倒的に低い受診率の数字を見ると、日本において精神的な相談をすることのハードルがもっと低かったら、助けを必要とする方が必要なケアにもっと繋がっていたら、と思わずにいられません。
ケアを受けることを「弱さ」として受け取るのではなく、自身の幸福、あるいは成功のための一助として捉えてほしい。しかし、なかなかメンタルヘルスを優先しにくい、そしてサポートに手が届きにくいカルチャーが未だに残っているのが日本の現状ではないでしょうか 。では、こうした状況をどうやったら少しでも改善できるのでしょう?
メンタルヘルスの大切さが軽視されがちなビジネス業界のなかでも、とりわけ強くあることを求められる「起業家」のメンタルヘルスに注目してみたいと思います。問題のあらわれが顕著であるだけに、診断と処方箋がある意味でクリアに見えてくるはずです。
起業家のメンタルヘルスの現状
さて、起業家のメンタルヘルスをめぐるシビアな状況はデータが物語るところです。Amazon創業者のジェフ・ベソスや、Microsoftの創業者のビル・ゲイツも、自身の不安やバーンアウトの経験について語っていますが、彼らは決して例外ではありません。Forbes誌が行ったアメリカの起業家の調査報告では、起業家の72%はメンタルヘルスに苦しんでいると答え、37%は不安症、10%はパニック発作、36%はバーンアウトを経験したと回答しています。さらに、81%の起業家はストレスや精神的な苦痛を他人には悟られないように、見せないようにしていると答え、その過半数以上が、共に起業した共同創業者にさえも自分の精神的な苦痛を見せないようにしていると答えています。そして、77%は専門家からのサポートを拒み、男性の起業家は女性の起業家に比べて約2倍メンタルヘルスに対する偏見を持っているという結果が報告されました。https://www.forbes.com/sites/annefield/2023/04/29/startup-founders-report-entrepreneurship-is-taking-a-toll-on-their-mental-health/