メンタルヘルスの大切さは以前より語られるようになったものの、G7の国々の中で自死者の総数が数年にわたり1位であり続ける日本。なぜ日本人のメンタルヘルスをめぐる状況はかくも深刻なのか? 今夏報道され注目を集めた女性起業家の深刻なハラスメント体験をめぐるニュースを出発点に、働くこととメンタルヘルスの関係を、経済学者の浜田宏一さんとの共著『うつを生きる 精神科医と患者の対話』の著書があり、小児精神科医でハーバード大学准教授の内田舞氏が考える(長年VCとして起業家をサポートしてきた湊雅之さんへの取材をもとに構成しています)。(全3回の3回目/最初から読む)
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失敗してもいい、という心の余裕を持つ
では、どうやって内的評価を育てることができるのでしょうか。
一つには、「失敗してもいい」と思える心の余裕を持つことです。
「失敗」は避けたいのは事実であり、そのための知識を得て、努力することは大切です。しかし、リスクがない起業というのはなく、ときには「失敗をしてもいい」と思えることが、良い判断に繋がることもあるのです。だから「失敗」にも絶望する必要はありません。一つの側面から見た結果が「失敗」であっても、その過程で努力したこと、つくりあげた人間関係やツールの価値は変わりません。また、そんな失敗を経て、逆に自分たちのストロングポイント(強み)は何なのかが明らかになることもあるのです。
例えば、ビジネスのコミュニケーションアプリとして多くの企業や団体で使われているSlack。創立当初は実はゲーム会社でしたが、ゲームの収益はいまいちで、「失敗」に終わりました。しかし、ゲームの制作と売り出しの過程で作られた社内のコミュニケーションシステムに自社のストロングポイントを見出したことで、そのツールが今あらゆるビジネスシーンで使われているSlackの開発に繋がったそうです。
このようにもし一つの指標で失敗があったとしても、その失敗から学び、そこまでの過程をみつめ直すことで、次の指針が見えてくることもあるのです。
他にも、配車アプリとして米国ではタクシー業界をリプレイスしたと言われるUberも、様々な事業で失敗した先にいきついたのが今の事業であり、また、日本で数少ないユニコーン企業(創業10年以内に10億ドル以上の評価額を得た企業)であるSmartHRも、12回も事業転換して現在の事業形態に行きついたという経緯があります。こういった一つ一つの企業の誕生と成長のストーリーは、やはり「新しいこと」を成すには、失敗を繰り返し、学び続ける必要があることを物語っているのです。これは何もスタートアップに限らず、どんな仕事においても同じかもしれません。