起業家の多くは新しいアイディアや製品が世の中に大きな影響を与える夢を見られる素晴らしいポジションにありますが、その旅路には特有のストレス要因が山積しています。資金の調達、キャッシュフローの管理、収益性の確保といった財務上の不安はもちろん、創業者は多くの場合、CEO、マーケティング担当者、人事、プロダクトマネージャーなどの複数の役割をやりくりすることもあり、自分が動かない限り何も進まないというハードな状況におかれています。
創業期には少数で複数の役割(ロール)をこなす必要があるだけでなく、起業時よりも事業拡大のステージが上がり、チームの数が増えるにつれ、その権限を移譲して自分の役割を「起業家」から「経営者」に進化させていくことが求められるのです。また、この過程で、顧客、従業員、投資家・金融機関などの資金提供者などのステークホルダーが、それぞれどのような利害や希望を持っているのかを理解し(ときにはそれが拮抗することもある)、応え続けなければいけない。
こういった労働は、すでに確立されたシステムの中で一人の従業員として向き合うのであれば、また意味は違ってきます。昇進や昇給の未来が見える中でこなすのであれば、短期的には耐えられるものかもしれません。しかし、慢性的に不確実な状況に身を置き、仕事に関わる頭を常に「オン」に保たなければならない状態は身体的にも精神的にもなかなか疲れるものです。これは起業家ばかりか、組織において新規事業立ち上げをはじめ、大きな責任を担う他のポジションにある人たちもまた、身に覚えがあるのではないでしょうか。
支配的な関係を受け入れない
冒頭のスタートアップ業界のハラスメントの話に戻ってみましょう。そもそも投資家というのは、ビジネスやアイディアにお金を投資することで、そのビジネスが成長し、金額が大きくなって返ってくることで成立する仕組みです。大きなお金を動かすリスクをとるのも当然、投資家の仕事のうち。
こうしてビジネスの成長を共通のゴールに掲げながら、お互いが別々のリスクを請け負うパートナーシップにおいて、起業家に発生する責任は投資されたビジネスを成長させることであって、ビジネス外の要求に答えなければならない「借り」があるわけでもなければ、投資家と起業家の関係においてどちらか一方が支配的なパワーを持つものでもないはずです。
これは起業家と投資家の関係に限られたものではありません。もし、自分の役割には結びつかない評価がされていると感じたら、あるいは支配的なパワーバランスのなかでの「見返り」を求められていると感じたら、そんなときこそ自分の大切にしているモットーやビジネスのビジョンといった「内的な評価」に立ち返ることが大切になります。自分自身の本当の価値からはズレてしまった外側からの、「外的な評価」に寄り添う必要はないのです。
起業家にとっての「内的な評価」と「外的な評価」とは何なのか? 次の回(#2)で紐解いていきましょう。
