日本が生き抜くには「プロデューサー力」が必要だ。アジアでの貿易ビジネス研究の第一人者・大泉啓一郎さんが、スタジオジブリの鈴木敏夫さんの仕事術から、海外進出を成功させるカギを引き出す対談の第3回。
第2回より続く
http://bunshun.jp/articles/-/7511
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コンビニは販売店にとどまらず、メディアなのだ
鈴木 周囲の協力で成功につながった実例をお話しましょう。2001年公開の『千と千尋の神隠し』から三菱商事が製作委員会に加わることとなり、三菱商事のグループ企業であるローソンとタイアップする話が持ち上がりました。
このとき私は、正直にいえば乗り気ではなかった。コンビニが日本の生活文化を破壊していると思っており、いろんなメディアでコンビニ批判を繰り広げていましたから。
ところが打ち合わせで会ったローソンの部長がすごかった。「コンビニを批判なさっていることは重々承知しております。でも、まずは僕の話を聞いてください」と前置きして、いかに自分は映画が好きかという大演説をはじめた。
いまだから言えますけど、相当うんざりしたのですが(笑)、その後、この人が大変な力になってくれました。
大泉 あの大ヒットにはローソンの力が大きかったのですか。
鈴木 強力な援軍でしたね。この人を通じて、「コンビニは販売店にとどまらず、メディアなのだ」ということを知りました。そこでコンビニから情報を発信していったのです。
影響力のあるメディアは時代とともに変遷していきます。1984年公開の『ナウシカ』の時代は、映画雑誌「ぴあ」の影響力が大きく、あの雑誌が特集してくれたら、ある程度のヒットが見こめました。それが86年に『天空の城ラピュタ 』が公開された頃から少し状況が変わり、映画館の予告編が大きな意味を持つようになりました。89年の『魔女の宅急便』ではTVスポットが力をもってくる。時代によって、「いまはこれだ」というメディアがあるのです。
じつは『千と千尋』のとき、宣伝の中心となるメディアをどこにしようか悩んでいました。97年の『もののけ姫』では、タイアップやパブリシティ、予告編と、これまで培ってきた手法を惜しみなく展開しました。でも時代は変わるのだから、同じことをしても効果がない。
大泉 そこで、ローソンというメディアを宣伝に利用した。