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「昔コンビニ、今LINE」メディアの勢いを見抜く――鈴木敏夫が語る「これからのプロデューサー論」

鈴木敏夫×大泉啓一郎『新貿易立国論』対談#3

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昔の経営陣はみんな辞めたらいいのに

『新貿易立国論』(大泉啓一郎 著)
『新貿易立国論』(大泉啓一郎 著)

鈴木 そう。当時、ローソンは全国に8600店舗ありましたが、若者が深夜、とくに目的もないのに、コンビニへ集まっていた。だから音楽業界はコンビニの店内放送で曲を流してもらうことに躍起になっていました。若者の情報発信源はコンビニだったのですよ。

 チラシを何百万枚も刷ってローソンの店内に置いたら、それが1日、2日ではける。前売券も32万枚がローソンで売れました。

大泉 すごい影響力ですね。

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鈴木 当時はすごかった。それが今はLINEになっています。LINEアカウントの影響力はすごい。世の中に告知するとき、いま最も元気なメディアはどこか。それを見るのが大事です。

大泉 コンビニ側にしてみれば、「またウチでやってくださいよ」となる。

鈴木 「申し訳ないけど世の中、変わったんですよね」ということです。そこはきちんと説明して、相手にも納得してもらいます。「変わったからといって、あなた方をないがしろにするわけではありません。だけど今は、このメディアを中心にします」と。

 みんなに喜んでもらわないといけませんから、こちらは必死ですよ。

鈴木敏夫さん ©石川啓次/文藝春秋

大泉 映画のヒットがみんなの目標であり、利益になる。その目標を実現するためには、過去の成功や経緯にとらわれないことが重要なのですね。

 ところが、過去の成功にとらわれているのが現在の日本ではないでしょうか。80年代に貿易立国路線で大成功したけど、その経験がマイナスに作用している。日本経済が強かったころビジネスの最前線にいた人たちが、いま経営層にいますが、大きな成功体験があるからビジネスモデルを変えようとしない。

鈴木 みんな辞めたらいいのに(笑)。過去の栄光にすがっている人が失敗する。

デジタル化はアジアの方が進んでいる

鈴木 大泉さんにお尋ねしたいのですが、日本は先進国なんですかね。違いますよね。そこを自覚することから始めないといけないのではないですか。

大泉 まったくその通りです。いまだに先進国だと思っている人が少なくないのです。

鈴木 最初(第1回)にも言いましたが、アジアにかかわる人には、「向こうのほうが上だよ」とアドバイスするのですが……。

大泉 なかなか信じてくれない日本人が多いですね。とくにデジタル化はアジアの方が進んでいます。

 デジタルは不都合を解決する手段ですから、日本よりも日常生活に不便や不都合の多いアジア各国のほうが、デジタル化のニーズがある。だから色いろなサービスが普及しています。具体的な例をあげますと、日本では、銀行の支店やコンビニ、ATMなど街中のいたるところで現金を下ろせますが、そうしたインフラのないアジアではデジタル技術をつかったキャッシュレス化が進んでおり、道ばたの露店でもスマホで決済できます。

 こうしたデジタル化によって社会はどう変わるのか。そして、日本がデジタル化の時代に生き残るためにはどうすればいいのか。
 そのとき、お手本になるのがスタジオジブリの作品だと思っています。

鈴木 そうですか。