卵巣が15センチまで腫れてしまい、通常の5倍の大きさに…
――告知の翌日から、どんなことをこなしていかれたのでしょうか。
長藤 告知の翌日にはすぐお客さまに挨拶回りをして、上司に引き継ぎをしました。というのも、私の状況がすでに治療を先延ばしできない段階だったんですね。卵巣って通常3センチ程度しかないらしいんですが、その時の私の卵巣は15センチまで腫れていたんです。
――通常の5倍の大きさにまで腫れていたんですね。症状もまったくなく?
長藤 本当に無症状でした。卵巣って、細い繊細な紙紐のような靭帯にぶら下がってるんですけど、卵巣の重さに耐えられなくなるとその“紙紐”がねじれて、最終的に卵巣が破裂してしまうそうなんです。
卵巣がんは基本的には無症状で、私のように元気なまま進行するので、オフィスで普通に働いていた女性が、ある日いきなり気絶して倒れる、みたいな発見のされ方も少なくないと聞きました。気絶してしまうのは、破裂のときの痛みがとんでもない激痛だからだそうです。
――では、一刻も早く卵巣を切除する治療をされた?
長藤 すでに15センチになっていたので、告知から1週間後に摘出手術することが早々に決まっていました。
なので、7日間のうちに仕事の引き継ぎや入院準備などの諸々を済ませなくてはならず、落ち込む暇もじっくり考える余裕もまったくなかったです。
妊娠の可能性を残すために片方の卵巣を残す決断を
――患部が卵巣ということで、将来お子さんを持つ可能性を残す選択肢はあったのでしょうか。
長藤 そこがまさに私が一番気にしていた部分だったので、告知の日にすでに細かくお医者さんに聞いて、片方の卵巣を残すことを希望したんです。
――ふたつある卵巣のうち、がんになっていない方の卵巣を残すことで、妊娠の可能性を残すということ?
長藤 そういうことになります。両方を切除する“全摘”をすれば妊娠の可能性は当然ゼロになりますが、がんの再発の可能性も低くなるので、全摘を推奨している病院も多いようです。
ただ、私のように妊娠の可能性を残すために片方の卵巣を温存したとしても、抗がん剤の影響で卵子が残るかどうかは未知数だとも言われました。そもそも、腫れていないもう片方の卵巣に関しても、手術してみなければ転移があるかどうかもわからない状況だったんです。
――卵子凍結という選択肢もあったのでしょうか。
長藤 卵子凍結の提案もしてもらいましたが、結論としては、私は凍結はしませんでした。
いつ破裂してもおかしくない爆弾を抱えながら、排卵のチャンスを待って十分な卵子の数を確保して……という時間的な余裕もなかったですし、当時彼はいましたが、結婚の話すら出ていない間柄で、いつ妊娠・出産するかも自分自身で決めきれていない中、この先、凍結の保存料もかかって……ということが、経済的にも時間的にも決断ができなかった、というのが正直なところです。