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「どうやら、殴られ、投げ飛ばされ、気を失うと、水を掛けられ、濡れタオルで顔を拭かれたらしいです。そこで気がつくと、また暴行を受けるといったことの繰り返しでした。それが断続的に朝、昼、夜、深夜と一日中続くのです。捜査官は2人または3人ひと組で私に暴行を加えてきました」

「棍棒だけではありません。平手で、あるいは拳で、顔面を殴打されました。柔道の技で何度も何度も床に投げ飛ばされました。転げると、多くの足に踏みつけられ、蹴り上げられたのです。寄ってたかって袋叩きにされたという表現のほうが当たっていると思います。ときどき非常な激しさで何かが私の頭と体にぶつかりました。何が起こっているのかわかりません。しかし痛みはほとんど感じないし、神経が麻痺したのならこの際ありがたいと思いました」

袴田さんは、たまっていた鬱憤(うっぷん)を晴らすかのように、話し続けた。私は、自分ならば1日も持たずに暴行から逃れるために嘘の自白をするだろう。そんなことを頭の隅で考えながら聴いていた。

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23日間にわたる取り調べを時系列で話していたのか、これでおしまいですが、と前置きし、「富士山が燃えているのを見たのが最後でした」と言って唇を震わせた。

「ある夜、私は涼しさを感じました。そして爽やかな風を覚えると、途端に蒸し風呂に閉じ込められるのです。もうろうとしているとまた涼風が吹き込みます。私は蒸し風呂に入ったり出たりしているのだと思いました。ひょっと気がつくと私の顔を悪魔がのぞいています。それを手で払いのけると、前方の一カ所が真っ赤になっていました。あれは富士山が燃えているのだとこの肌全体で感じました。悲しかったです。それは日本の終わりを告げているようでした。私は泣いていました。すると何者かが冷たいタオルで顔を拭いてくれました、その何者かは、あやつり人形みたいでした。何もかもが不自然で奇妙な思い出が今でも蘇ってきて、頭がおかしくなったのかと思うこのごろです」