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 だが、どこかからチンコロ(密告)が入ったのか、旧大蔵省(現財務省)に誰かが刺したのか。 

「おかしいじゃないか」

 そんな声が入ったのだろう。所管官庁からの働き掛けとあっては、東邦生命側も無下にはできない。

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「とにかく、会社を閉めてくれ」東邦エンタープライズ閉業

「とにかく、会社を閉めてくれ。事務所も出てくれ」

 そんな要請があったのも無理のない話である。

 そこで、私は東邦生命ビルにまで確認に出向いた。

 東邦生命の専務は絞り出すように告げた。

「何の問題もないんやけど。できることならば……」

 東邦生命に迷惑を掛けるようなことがあってはならない。仕方がない。私は会社を閉めざるをえなかった。条件は一切つけていない。何の注文もない。

 私はこのときまで、募取法の存在すら知らなかった。知りもしない法律に反していると追い込まれるなどとは夢にも思わなかった。

 とにかく私は、この件では潔く身を引いた。いずれにせよ、失敗は失敗。認めてやり直すしかない。

「闇社会の帝王」と呼ばれた許永中 ©文藝春秋

1000万円を持ち逃げした西村

 この顛末の後、西村はとんでもないことをしでかす。私が貸し付けていた1000万円を持ち逃げしたのだ。

 そればかりか、山健組傘下の太田興業「本部長」の肩書きを持った人物をバックに、しょうもないことで私に追い込みをかけてきた。西村が言ってきた。

「本町駅近くのホテルで会いたい」

 出向いてみると、その「本部長」がヌッと顔を出す。

 こういうとき、私の対応はいつも決まっている。

「お前、何や!」

 かんからかんに怒り飛ばすのみだ。

「お前、何しについてきたんや。何が言いたいんや」

 私はよく分かっていた。私を脅すためだ。当時、山健組の看板には絶大な威光があった。

 どこに出しても通用する。まさに「天下の山健」。太田興業はその山健組の傘下だ。

 西村と別れた後、私は周りの人間に命じた。

「西村を、連れてこい!」

 間もなく、西村は身体ごと私の前にさらわれてきた。

「裸にして、犬小屋に放り込んどけ!」

 私の事務所のガレージ横にはグレートデン犬用の犬舎が3つあった。そのときはもう犬は飼っていない。空き家だった。

 西村には、まる2日間、水とドッグフードだけしか与えなかった。