人間ではなく場所に注目した防犯のあり方
『子どもは「この場所」で襲われる』(小学館新書、2015年)などの著書がある社会学者・犯罪学者の小宮信夫さんは、この事件を「物理的に“見えにくい”場所で起きたもの」と指摘しています。
そのトイレは構造的に、従業員やほかの買い物客からの死角になっていました。男は、犯行の4時間前から現場をうろつき、ひとりになる子どもがいないか探していたそうです。そして、その見えにくい状況を利用したというわけです。
小宮さんは、「不審者・犯罪者といった“人”ではなく、犯罪が起きる“場所”に注目することが防犯につながる」という「犯罪機会論」を提唱されています。この場合、男が子どもに近づく“チャンス”をトイレがつくってしまったことになります。
アメリカでも、場所に注目した研究があります。警察の犯罪抑制プログラムの有効性を検証した65件の研究があり、それらを統合的に分析した結果、犯罪が集中している狭い地域が存在するとわかりました。そして、それらの地域に焦点を当てた“ホットスポット警察”が犯罪防止戦略として有効だと証明されました(*3)
*3:「Hot spots policing of small geographic areas effects on crime」Braga AA, et al. Campbell 2019;15(3):e1046.
加害者は用意周到で狡猾で、粘り強い
加害者にとってのチャンスを一つひとつ潰していくことで、子どもの安全性は確実に高まります。それと同時に、子どもを狙う性加害者たちの特性も知っておいたほうがいいと私は考えます。
彼らは事前に入念な下調べと準備をし、子どもを襲うチャンスが訪れるのをひたすら待ちます。親にとっては「ちょっとのあいだ」でも、彼らにとっては何度も頭のなかでシミュレーションした計画を実行に移す千載一遇のチャンスが、やっとめぐってきたことになります。