青春18きっぷ向きだったスイッチバック探訪旅行
私が初めてこの4連続スイッチバックを体験したのは、元号が平成に改まる直前の昭和64(1989)年1月初旬だった。東京に住む中学生だった私は、日頃からため続けていた小遣いをはたいてクラスメイトと青春18きっぷを共同購入し、冬休みの最後の1日を利用してこの4連続スイッチバックを普通列車で乗り通している。
現在、福島~米沢間の普通列車は1日6往復、そのうち5往復は通勤・通学時間帯である朝と夕方以降に集中している。
だが、当時は日中に2往復が設定されていたため、上り列車と下り列車をうまく組み合わせて利用すれば、板谷峠に並ぶスイッチバック駅で何度か途中下車しても東京から青春18きっぷで日帰りできたのだ。
翌年の夏にスイッチバックが全廃される前にも、やはり青春18きっぷで現地を再訪している。どっちみち普通列車でしか体験できないのだから、旅行資金が限られている東京都内の中学生にとって、板谷峠の連続スイッチバックは青春18きっぷで日帰りできる絶好の旅行先だった。
それから約36年が経った令和の今、板谷峠を日中に走る普通列車は1往復だけ。しかも、都心部から東北本線を乗り継いで板谷峠を通って休止前の大沢駅まで乗ってしまうと、普通列車だけではその日のうちに東京都内に戻ることができないダイヤになっていた(東北本線の上り最終電車が大宮止まり)。
スマホやインターネットの普及で世の中は昭和時代より格段に便利になったけど、中高生が青春18きっぷを使ってクラスメイトと安上がりの鉄道旅行を体験できる環境は、逆に狭まっているような気がする。
写真=小牟田哲彦