経済的困窮、受診遅れによる死亡も…
近年、経済的困窮により医療を受けられない人も増えている。全日本民主医療機関連合会(民医連)が「2023年経済的事由による手遅れ 死亡事例調査概要報告」を発表した。全日本民医連加盟事業者の患者、利用者のうち、
(1)国保税(料)、その他保険料滞納などにより、無保険もしくは資格証明書、短期保険証発行により病状が悪化し死亡に至ったと考えられる事例
(2)正規保険証を保持しながらも、経済的事由により受診が遅れ死亡に至ったと考えられる事例
を調査している。
つまり(2)は、保険証はあるのに、窓口で支払う一部負担金が支払えないということだ。
報告書にある一部を紹介する。
<40代女性。母・兄と3人暮らし。母は認知機能の低下が顕著。本人が日常生活を介助。兄は精神疾患があり、身の回りのことはできるが母の介護は難しい。本人は非正規雇用で物流関係の仕事をしていた。母の介護相談時に地域包括の職員が同席した娘の体調が見るからに不良と判断し、本人は経済的困窮により拒否したものの無料低額診療事業を紹介。検査の結果、子宮筋腫、肝硬変、大動脈弁二尖弁など。他院を紹介されたが、本人は経済的理由で拒んだ。説得。その後生活保護申請にも行くことができ、今後の受診を考えていた矢先に心肺停止。救急搬送され死亡>
そのほか80代男性で生活保護基準の140%の年金収入があったものの、いくらかかるかわからないという医療費への不安があり受診控えでがんにより死亡したケースや、保険料が払えず無保険になった例もあった。
民医連事務局次長の山本淑子氏は「厚労省は『無保険はありません』と言いますが、手元に保険証がなく、資格証明書発行ですと窓口で10割負担ですから無保険状態と同じ」と指摘する。
「保険料を払っていなくて保険証をもっていないから自分は医療を受ける権利がないと我慢する。国保料そのものが高すぎて負担が重すぎて払えないのに、払わないんだからいけないんだという自己責任の風潮ですよね。だから手遅れを生んでしまう。また特にコロナ禍では会社勤めを辞めざるをえなくなって、国保にうまく移行できずに保険がない状態という人も一時期増えました」
たしかに私もコロナ禍での救急医療現場を密着取材していた際、所持金が8円で公的医療保険に加入していない40代男性を見かけた。お金がない、住むところがない、死にたいが死ねないと、その男性は救急車を呼んだのだ。決して許される行為ではないが、八方塞がりの状況に胸が痛くなった。
山本氏も医療現場で働くベテランのソーシャルワーカーに尋ねると、「どうしてこんなになるまで放っておいたの?」という人が少なくないという。
「経済的に困窮した結果、受診控えで病気が悪化しているというケースが目立ちます。私が毎年この調査をしていてつらいのは、爪に火をともすような生活のなか保険料を払って、保険証があるのに、窓口での負担が払えなくて我慢して重症化したり、死亡した事例を知る時です。なんのための保険証なんだろう。保険証があれば安心して、そして負担なく、医療にかかれるようにならないといけません」