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『惣十郎浮世始末』木内昇

『惣十郎浮世始末』木内昇

 ――時は天保の改革の頃、疱瘡が流行し、改革で幕府の政の柱も揺らぐ中、浅草の薬種問屋で火事が起きた。焼け跡から二体の骸が見つかり、北町奉行所の定町廻同心、惣十郎は配下の佐吉や岡っ引きの完治らと調べに乗り出す。犯人を捕らえたが、黒幕の存在が明らかになり――。著者が新たな地平を開いた捕物帳です。

 木内さんは、初ノミネートです。

 栗澤 1回読み終えて余韻が残り、読み直してさらにその余韻が深まり、木内さんは心情の機微を描くのが非常に上手い作家だと改めて思いました。人間の感情って単純には割り切れない。思うままにはいかないよということがそのまま描かれているんです。たとえば、主人公の惣十郎には奥さんだった郁とは別に想い人がいた。お手伝いに来ているお雅は、実は惣十郎に恋心を寄せている。こういうままならない関係性の描き方はもうお見事としか言えません。時代小説が初めてというお客様にも安心しておすすめできる一冊です。

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 北川 今までの同心のイメージとはまた違った人情深い主人公が魅力でした。

人間という生き物はどこか弱いところを持っており、ついつい魔が差して罪を犯してしまうということがある。その気持ちをどう抑えていくのかとしみじみ考えさせられました。はやくも続きが読みたい作品です。シリーズ化も希望です。

 久田 捕物帳の主役は基本的にかっこいい人が多いですよね。剣の腕も立ち、鋭いひらめきで手下を自在に使って事件を解決に導く。けれども本書の主人公は、下手人を捕まえた後に上役や仕事の愚痴を言ったり、事務手続きの一切を面倒くさがったり、いままでの捕物帳の主人公からどこか外れているのに、キャラクターとして魅力があふれていて面白かった。読み心地がとにかく素晴らしい作品なので、面白い時代小説をお求めのお客様にはおすすめしやすい一冊です。