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 このように受験による子どもの発達上の負担は大きいのですが、研究によって親の社会経済的地位が子どもの学力に影響するという結果が示され、受験の結果は親次第と煽る風潮がある中では、親がプレッシャーを受け、焦燥感に駆られるのも必然でしょう。子どもに期待をかける親がヒートアップすると、教育虐待が起きてしまいます。

 受験校を実力より高く設定すれば当然、成績が目標に達しにくくなり、最初の頃の叱咤激励がエスカレートして、叱責、罵倒、無視、体罰や行動制限を含む制裁、人格否定などになっていきます。親が熱を入れて生活を管理しサポートすればするほど、子どもは人生の統制感を失い、失敗を恐れ、主体性や自己肯定感を低下させ、意志や感情を抑えるようになります。

 このように記述すると、やりすぎる親が不見識だと批判が上がるのですが、実は教育虐待の大きな問題点は、親のみならず教育産業関係者、そして世間がその行為を愛情や教育熱心さとして正当化することです。親は、自分の行為の正しさを保証する情報を探し、受験の苦しみは子どもを成長させる、逃げてはならないものと考えようとします。また、子どもの人生の責任は自分にあると考え、成功させなければと思います。教育虐待は、日本の競争的な価値観やメディアからの情報に煽られ支えられているのです。

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国連から5度の是正勧告

写真はイメージ ©mapo/イメージマート

 実はこのような状況は古くから存在し、国連子どもの権利委員会は1998年から5回に渡り、日本政府に対して「過度に競争的な教育環境」の是正を勧告してきました。しかし改善策は取られず、親以外の教師や教育産業関係者、スポーツや芸術を含めた習い事の関係者も、バーンアウト(燃え尽き症候群)する子どもが出ても成功を目指し続けてきたのです。

 その結果、カウンセリングの現場には、CPTSD(複雑性心的外傷後ストレス障害)と言われる、長期にわたるストレスによるさまざまな症状を示す患者が多く面接に訪れています。彼らは、何かに脅かされている感じが消えない、うつ状態になったり怒りが爆発したりするなど感情が統制しにくい、自尊心が低下して自己否定が始まる、対人関係に困難を抱えるといった症状に苦しんでいます。