二酸化炭素排出によって悪化する気候変動や海洋酸性化、プラスチックや化学物質による汚染、魚の乱獲などの人為的活動とそれらの複合的作用によって、海は機能不全に陥り、地球環境がショックに耐え、順応する力である「自己保全能力」が失われている。その影響は気候から微生物に至る地球全域に及ぶ。
海の問題は社会経済的問題
ところが海は、陸上で暮らす私たち人類にとって心理的に遠い存在だ。国際連合がこの10年掲げてきた国際目標SDGs(持続可能な開発目標)のうち「海の豊かさを守る」への投資額は17目標のなかで最下位、サステナビリティ(持続可能性)に注力している企業でも海に目を向けているのは20%未満という調査もある。海は未知に満ちていることや、その64%がどの国にも所属しない公海であることなども、こうした消極的な姿勢に影響している。
そんななか、21世紀に入った頃から、「ブルーエコノミー」という考え方が注目されている。「サステナブル・ブルーエコノミー」と呼ばれることもあるが、海洋資源の持続的な利活用を通じて、海洋環境を保全しながら経済発展を目指すというものだ。世界的な取り組みも始まっており、国際自然保護連合は、深海の鉱物採掘は十分な知見が揃うまで制限するという決議を可決。
2025年は、2021年から始まった「持続可能な開発のための国連海洋科学の10年」の折り返し地点であり、6月には国連海洋会議が仏ニースで開催される。しかし、ブルーエコノミーの実現に必要なデータや研究、法律、人材・教育は不十分だ。
英語で海を意味するOceanは、世界の海がつながっていることへの意識を高めるために、単数形での使用が標準的となっている。海洋汚染の九割は陸に起因していることが端的に示す通り、海の問題は人間の行動・態度に起因した社会経済的問題でもある。人間が海に与える影響や、海が人間に与える影響を理解する「海洋リテラシー」を人々が高めていく――。
それが、私たちが海との関係を改善し、危機から救うための第一歩となる。
◆このコラムは、政治、経済からスポーツや芸能まで、世の中の事象を幅広く網羅した『文藝春秋オピニオン 2025年の論点100』に掲載されています。