石川県輪島市には「日本で最強」と言われる海女(あま)の集団がいる。しかし、近年は海洋環境の変化で水揚げの減少に悩まされてきた。厳しい仕事だけに、海女を目指す若者も減った。そうした時に能登半島地震が起きた。輪島港が隆起し、いつ漁に出られるか分からない。損壊した自宅の再建費用もままならない。輪島の海女は二重三重の苦しみにあえいでいる。

磯舟のすぐ横で潜る(舳倉島。2019年撮影)

水温上昇の影響でアワビの漁獲量が年々減少

「熱いなぁ」

 門木奈津希(かどき・なつき)さん(43)は海の中でそう思った。

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「お湯のような海水温でした。下の方に潜るとひんやりしていますが、海面は熱いのです。海に入って『熱い、熱い』と言うなんて、気持ち悪いなと思いました」

 2023年夏のことである。

 奈津希さんは海女だ。「輪島の海女漁保存振興会」の会長として、市内の海女を取りまとめる立場にある。高齢化が進んだ海女の世界では若い方だが、15歳で海女になってから28年も経った。潜水の深さと獲物を見つける視力の良さでは輪島随一と評価されている。

 熟練の域に達している奈津希さんだけに、以前も「海が熱い」と感じたことはあった。「その時には潜るとサザエが湧くようにいました」と語る。しかし、2023年の夏はアワビがごくわずかしか採れなかった。

海女漁の漁獲。アワビが少ない(舳倉島。2019年撮影)

「5人で潜ると、そのうち3人は1匹も採れないというような状態でした」

 恐ろしいことに、そうした年が増えている。

管理型の漁業ができるカラクリ

「7年ほど前なら、沖の深いところまで潜れば、アワビがいました。でも、今はいないので行きません。サザエはまだいる方なので、サザエを探している時に見つけたのを採るぐらいです」と話す。

 なぜ、そのようなことになってしまったのか。

 奈津希さんは「カジメというアワビが食べる海草がなくなっているのです」と説明する。原因は定かではないが、「水温上昇も影響しているのではないか」と見ている。

 深刻なのは、どれだけ漁業資源を保護しても、一向に成果が上がらないことだ。

 資源を守りながら採るという管理型の漁業ができるのは、輪島の海女の成り立ちに秘密がある。

 輪島には375年前、加賀藩主に土地を拝領して定着した漁業集団がいる。現在の海士(あま)町自治会(約300世帯)だ。

 同自治会に属する漁師や海女が漁業権を持っているのは、輪島の沖合48kmにある絶海の孤島・舳倉(へぐら)島や、その途中にある七ツ島などだ。海士町では漁法ごとに組合を結成していて、それぞれ独自に出漁日を決めるなど「守る漁業」を実践している。