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「海が熱くて、アワビがいない」曲がり角を迎えていた漁を能登半島地震が襲う「このままでは海女がいなくなってしまう」

「海が熱くて、アワビがいない」曲がり角を迎えていた漁を能登半島地震が襲う「このままでは海女がいなくなってしまう」

能登半島地震「最強の海女」の苦境#3

2024/04/07

genre : ライフ, 社会

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モズクがあってこそ成り立っている状態だが…

 中でも熱心に取り組んできたのが海女漁を行う磯入(いそいり)組合だ。

 サザエ・アワビの漁期は7~9月に限定している。サシと呼ばれる物差しを用いて小さな貝は採らない。禁漁区を決めているだけでなく、行政と協力して稚貝の放流も行ってきた。

 それでも、アワビは増える気配すらない。

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 かつては7~9月のサザエ・アワビ漁で1年分を稼いでいたが、そのようなことなど昔話になってしまった。

 そうでなくても短い漁期をさらに短くする努力も続けている。サザエ・アワビ漁は7月に解禁されても、すぐに採るようなことはしない。まずはモズク漁を1カ月ほど続け、残りの2カ月だけサザエとアワビを採るのだ。

 海女漁はモズクがあってこそ成り立っている状態なのである。

舳倉島。道いっぱいに海藻が干されていた(2019年撮影)

 そのモズクとて採り放題ではない。「1日に採取できる量を決めています。これも長く採り続けられるようにする工夫です」と奈津希さんは語る。

 ここ数年はモズクの生育が良かったから、何とか収益が確保できた。が、将来にわたって安定した漁が続けられる保証はない。奈津希さんは「モズクは雪が多く降った年にはたくさん生えると年寄りから伝えられてきました」と話す。気候変動でさらに雪が少なくなりかねないのに、どうなるのか。不安は拭えない。

収入が安定しないことから、海女は減少の一途をたどる

 海女を取り巻く厳しさは他にもある。

 海士町の海女が海に潜るのは7~9月だけではない。4月下旬から6月までは、金沢の沿岸で岩ガキを採る。この海区に海士町の漁業権はないが、働き盛りの海女が入漁料を支払って海に入る。

 10月の休漁期が終われば、ナマコやワカメを採る人もいる。

 こうして漁を続けても、それに見合う収入は得られなくなった。

 なのに仕事はハードだ。#2で述べたように、日本海のうねりに酔ったり、おぼれたりすることもある。サメにも遭遇する。そして何より、川のような海で4時間も泳ぎ続けなければ、流されてしまう。

日本海のまっただ中にある絶海の孤島。潮は川のように速い(舳倉島。2019年撮影)

 命がけの漁であるにもかかわらず、収入が安定しないことから、海士町の若手は海女にならなくなっている。

 奈津希さんも「3人の娘には海女になってほしくない」と言う。

 このため、海女は減少の一途をたどってきた。

 輪島市農林水産課によると、市内で海女漁をしているのは海士町と隣の輪島崎(わじまざき)町で、主に女性だ。両者には漁場の違いがあり、輪島崎町の海女は輪島の沿岸で潜る。日本海の真っ只中に向かう海士町とはかなり様相が違う。