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震災で高齢の海女が一気に引退しかねない事態に

 以前は両町合わせて200人を超える海女がいた。ところが、2023年までに約170人に減った。そのうち海士町が約160人、輪島崎町が約10人という。

 ただ、これらには高齢で病気をするなどして潜っていない人も含まれているといい、実際に漁をしている海女はもっと少ない。

 海士町で海女をするには自治会から鑑札をもらわなければならない。鑑札を受けた人数だと、市のカウントより30人も少ない131人だ。

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 年齢は24~84歳。20代はたった1人で、30代も3人にすぎない。43歳の奈津希さんはごく若手の方なのである。

 一方、70~80代はかなりの人数がいる。

 高齢だからと言って実力を甘く見てはいけない。日頃は「足が痛い」「腰が痛い」と漏らしていても、いざ海に入ると見違えるように泳ぐ。やはり「最強の海女」なのである。

「海に入った方が体調はいいそうで、シケが続いて海に入れないと具合が悪くなるというような人ばかりです。私もそうなるのかな」と奈津希さんは笑う。

 だが、そうした高齢の海女が一気に引退しかねない事態になった。

 能登半島地震で輪島港や舳倉島が被災。海女漁に一切出られなくなったのだ。

高齢化が進んでいた海士町。避難でひと気がしなくなった一角に、三輪車が止められていた(輪島市)

輪島港が抱える大きな問題

 奈津希さんの夫・始さん(50)は「2~3年も海に入れなければ、60歳を過ぎた海女はやめてしまうのではないかという不安が出ています。これまで1年も2年も潜れなかったことはありませんでした」と語る。始さんは海女漁の船頭で、磯入組合の組合長を務めている。

 どれほど深刻なのか。

 輪島港は完全に干上がりはしなかったものの、海底が1~2mも隆起して、船が出入りできなくなった。地震が起きた時、漁師は津波の被害からのがれるために船を沖に出すのが通例だ。しかし、引き波や海底の隆起で間に合わず、港の真ん中で立ち往生した船もあった。岸壁に係留された船は海底に接した状態のまま、強風やうねりにさらされている。このままだと多くの船が海底でこすれるなどして破損が進む。

 隆起した港を掘って漁船を救いだそうと、国が浚渫(しゅんせつ)工事を進めているが、岩盤や岩礁があれば掘り進められないこともある。海底がどのようになっているかは、掘り進めながらしか確認できないという。

発災時に沖に出ようとして、港内で立ち往生した漁船(輪島港)

 こうした作業で漁船を助け出せたとしても、修理が必要になる。ところが、輪島の造船関連業者は全て被災してしまった。