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 ただ、サッカー発祥の地であり、マリーシアとは縁がなかったはずのイングランドでも、実はVARに対する反発の声はある。プレミアリーグでもファンの6割以上が反対しているというデータもある。なぜ、やられることはあっても絶対に自分たちも神の手をやろう、などとは考えない国の人たちが、第二、第三の神の手を確実に防いでくれるシステムに反対するのか。

 そこには、サッカーファン、というか、スポーツファンの特質が表れているように思える。つまりは、保守性。

 '92年のバルセロナ五輪において、初めてGKへのバックパスが禁止されたとき、賛成の声をあげた識者はほぼ皆無だった。GKによる時間稼ぎを減らし、エキサイティングな場面を増やそうとの狙いから導入されたこのルールによって、サッカーは確実に進化し、娯楽性も高まった。にも関わらず、導入当初は不要のルールだの、サッカーの精神に反するだのと、世界中から総スカンを食らったような状態だった。もちろん、草サッカーのGKだったわたしも激烈な反対派だった。新しいものに無条件で反発したくなる性質が少なくともわたしにはあるが、時を経て、間違っていたのがどちらだったのかは言うまでもない。

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第二の神の手が起きたとしたら

写真はイメージ ©GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート

 ただ、現行のVARに関しては、早急に解決しなければならない問題もある。それは、時間の問題。人間の目だけに頼っていた時代とは比較にならないぐらい正確な判定が下されるようになった一方で、サッカーの試合時間は確実に延びた。以前は追加時間が「5分」とでも表示されようものなら、スタジアム中がどよめいたものだが、いまは10分、15分の追加時間も珍しくなくなった。全世界的にタイムパフォーマンスを重んじる層が増えている昨今、試合時間の増加はファン離れを招きかねない。

 もっともこの問題に関しては、案外あっさりと解決されることになるかもしれない。現状のVARはテクノロジーを道具とし、最終的な判断は人間の手に委ねられているが、すべてをAIに任せるようなシステムになれば、時間は間違いなく短縮されるからである。どうせだったら、そのシステム自体を日本企業が開発してくれれば、サッカー史に名を刻めるのに――というのはともかくとして。