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箱根駅伝はなぜ、愛されるのか。

 2024年1月に第100回の節目を迎えた箱根駅伝は、日本のお正月の風物詩となっている。なぜこれほど愛されるのだろうか。増田はこう感じている。

「お正月、1月2日から、寒空の下、前に向かってひたむきに走る選手の姿と、選手たちを後ろ側で支える人々の物語が、1年の初めにふさわしいんだと思うんです。それが伝わってくる日本テレビの中継の素晴らしさもありますね。坂田さんとともに箱根駅伝完全生中継を作り上げた初代ディレクター田中晃さん(現・WOWOW代表取締役会長)から何度も聞いたのは、『選手への愛とリスペクト』というフレーズでした。

 実際の箱根駅伝を走る選手たちは、一人ひとり、いろんなものを背負っています。中継をみていると、彼らが、どんな困難を乗り越えてきたのか。誰に支えられてきたのかが伝わってきます。いつのまにか、自分と重ね合わせて、応援したくなるんだと思います」

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左:『俺たちの箱根駅伝』上巻
右:『俺たちの箱根駅伝』下巻

小説『俺たちの箱根駅伝』に描かれた、選手たちの家族の物語

 箱根駅伝と縁が深い増田は、小説『俺たちの箱根駅伝』をどう読んだのか。

「『俺たちの箱根駅伝』でも学生連合チームの一員として、選手ひとりひとりのバックグラウンドが描かれていて、何度も泣いてしまいました。私たちって、家族や学校、会社など、ある種のチームのなかで生きていますよね。その場所で、うまくいかないこともありますけれど、困難に対して純粋に立ち向かっていく姿は、強く美しいものでした」

 伝える側である増田は、「アナウンサーが持つ言葉の力」にも感銘を受けたという。

「今作に登場する辛島アナウンサーの実況は素晴らしかったです。読んでいると、辛島さんの声色が浮かび上がってきました。辛島さんは、箱根を走る選手たちは、それぞれに人としての物語がある、という考えを持っていました。そのうえで、選手のバックグラウンドは伝えるけれど、プライベートには踏み込まない、というスタンス。

 一方で私の解説は、陸上競技に詳しくない視聴者にも楽しんでもらいたいという気持ちが強くて、ついつい踏み込みすぎてしまって……。陸上競技ファンのなかには、『うるさい』と感じる方もいらっしゃるかもしれません。家に帰って、録画した映像をみたら、私でもそう思うときもありますから(笑)」

2024年のパリ五輪でも、熱烈解説が人気を博した。

 30年以上も陸上競技の魅力を伝え続ける増田が、大切にしているのは、「走っている選手の後ろには家族がいる」という信念だ。マラソン中継の解説をしながら、涙をこらえることができなかったこともあった。