「2024年1月の大阪国際女子マラソンで、前田穂南選手が見事な走りを見せて、19年ぶりに日本新記録が誕生しました。このとき、お父さんが32キロ地点から、所属する天満屋のユニフォームと同じピンク色のウェアを着て、並走していたんです。それを見ると、涙があふれてきてしまって。しかも、お父さんはサッカーをしていましたから、前田選手と並走できるくらいのスピードで、まるで忍者のように速くて(笑)。家族に支えられての『日本新記録』が本当に素晴らしかったです」
夢破れた選手を率いる甲斐監督と、名伯楽・小出義雄監督
学生連合チームは、本選に出場することが叶わなかった選手たちで構成されている。夢破れた選手たちをもう一度、目標に向かわせることは難しい。「それをまとめあげた監督の手腕にも感激した」と増田は話す。
「甲斐監督の言葉で、『メンタルが七割』というセリフがよく出てきますが、池井戸さんは陸上競技をよくご存じだな、と感じました。日々の地道な練習の積み重ねが大切で、そのためにはメンタルが重要になってくる。さらには、競技本番で大勝負をかける場面でも、メンタルが大事になります。選手は一人ひとり性格が違うので、指導者のメッセージの伝え方はとても難しいんです。ましてや、一度、挫折した選手たちですから。甲斐監督が、どんな声がけをするのか。読者の皆さんは、その部分も楽しんでもらいたいですね」
甲斐監督の選手指導を読みながら、増田さんは故・小出義雄監督のことを思い出したという。
小出監督は、1997年アテネ世界陸上・金メダリストの鈴木博美選手、2000年シドニー五輪・金メダリストの高橋尚子選手ら多くのトップアスリートを育てあげた名伯楽。増田は、小出監督に誘われて、過酷な練習を何度も取材していた。
「練習中に小出監督が言っているのは、1キロ毎のスプリットタイムと、『Qちゃん(高橋尚子選手)、いいね』ばかりでした。周りからみたら、簡単に見えるかもしれないですが、そうではないんです。小出監督はすべての朝練習に立ち会って、徹底的に選手を観察していました。そのうえで『具体的な指導は練習を終えたあと!』と決めていました。短い声掛けの裏側には、私たちから見えない部分での選手観察があったんです。甲斐監督の、学生連合チームの選手たちへの『声がけ』は、選手をしっかりと見つめていたからこそ、なのだと思いました」