周囲から「結婚したの!?」と聞かれるも...
一方、職場の上司には、母子手帳をもらったあとに出産予定であることを伝えた。驚かれながらも結婚については特に聞かれず、透子さんもそれ以上は伝えずに済んだという。
「部署内の人たちには、安定期に入ってから全体ミーティングの場で出産や育児のために休暇を取得する予定があることを伝えました。部署以外の知り合いには、お腹が目立ち始めてから“結婚したの!?”としばしば声を掛けられましたが、その都度、未婚で産休に入る旨を明るく堂々と伝えました。皆さん優しいので驚きながらも大人な対応をしてくださり、復職後も含めて普通に接して頂けていて、職場では特に嫌な思いはしていないので有難かったです」
“自分の人生”として責任と覚悟を持てるかどうか
子育ても5年目に入り、透子さんは改めて自身の決断をこう振り返る。
「私の場合は、挑戦しても授かれずに多くの時間と労力とお金を失うだけになるかもしれない、将来子どもに出自のことで責められるかもしれないなど、その道を選んだ場合に考え得る最悪の可能性をすべて考え、それでも実現に向けて行動したいかどうかを何度も自問自答しました。子供の人生を巻き込むことも考慮した上で、“世間”や“普通”ではなく、“自分の人生”として責任と覚悟を持てるかどうか。これを主軸に考え抜いた決断であれば、どんな結果であっても、納得できるのではないかと改めて思っています」。子どもには、子どもの成長段階に合わせて出自について隠さず話していくつもりだ。
今、日本では、生殖補助医療について規定した「特定生殖補助医療法案」が議論の渦中にあり、今年にも国会で成立するとみられている。法案が成立すれば、第三者の精子や卵子を用いた不妊治療を受けられるのは、婚姻夫婦に限ると法律上規定され、透子さんのようなシングル女性が日本の医療施設で不妊治療を受けることは、絶望的となる。
ただし、法で規制しても、子どもを持ちたいという女性の気持ちにまで蓋はできない。時代とともに家族観が変容するなか、今後も透子さんのような未婚女性が、大金を犠牲に海外に渡り不妊治療を受けるケースは途絶えることがないだろう。日本で不妊治療を受ける権利、子どもを授かる権利をどこまで認めるか。子どもの福祉と併せ議論すべきときにきている。