未婚女性に立ちはだかる「壁」

「結婚は年を取ってからでもできるかもしれないけど、出産は今のうちしかできない」。こうして透子さんは、次第にパートナーがいない状態での出産を考え始めるようになった。

 だが、透子さんのようなパートナーのいない未婚女性は、日本の医療機関で不妊治療を受けたくても、受けられないという大きな壁がある。日本の不妊治療施設は、厚生科学審議会の報告書に基づき、第三者の精子や卵子を用いた不妊治療は法律上の夫婦に限るところがほとんどで、パートナーのいない未婚女性に治療を提供する医療施設はほぼゼロに等しいからだ。

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不妊治療にともなう「高額な医療費」と「衛生面の問題」

 したがって、そうした人が不妊治療を希望する場合は、海外の安全な医療環境にアクセスするか、SNSなどを通して精子提供者を個人的に探すしかない。前者は高額な医療費が、後者は安全性や衛生面の問題が付きまとい、いずれも出産への“高いハードル”になっていた。幸い透子さんには積み立てていた貯金があったため、そのお金を海外での不妊治療に充てることができた。

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「社会人当初から明確に目的を決めて貯金していたわけではありませんが、将来『お一人様』になる可能性が頭にあったことや、将来やりたいことができたときにお金で躊躇しなくてすむようにと積み立てていて、今がまさに使いどころだと思いました」(透子さん)

不妊治療を受けるため渡米を決断

 こうして透子さんは選択的シングルマザーになることを決意し、アメリカで不妊治療を受けることにした。

 透子さんが頼ったのは、アメリカの不妊治療専門のクリニックと連携し、日本人女性向けに卵子提供や精子提供、代理母出産のプログラムを提供する、カリフォルニア州にある「ミラクルベビー」だ。現地の医師や医療機関とのやり取りはすべて日本語で全面的にサポートしてくれること、受精卵を移植した後の妊娠率が、日本の治療成績と比べ80%(ミラクルベビーの統計による)と高いことが決め手となった(日本産科婦人科学会の2021年の報告によると、仮に40歳の場合、総移植あたりの妊娠率は29.8%)。

 精子提供から妊娠までのプロセスについて、「ミラクルベビー」代表で現地在住の石原理子さんはこう説明する。