夫もパートナーもいないけど、子どもは産みたい。そう希望する女性が、海外の精子バンクで精子を購入し、現地で不妊治療を受け、妊娠・出産を叶えるケースがある。このように、あえて結婚せずに母親になる女性のことを「選択的シングルマザー」と呼ぶ。

 ゴールの見えない婚活や、“お守り”代わりの凍結卵子に見切りをつけ、母になることを目指し海外に渡る彼女たちの切実な事情とは。

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©graphica/イメージマート

パートナーがいないまま出産を選んだ

「選択的シングルマザー」を選び、体外受精により自身で子どもを出産した40代前半の山野透子さん(仮名)。現在、保育園に通う息子を一人で育てている。透子さんが、パートナーもいないまま子どもを妊娠、出産することに決めたのは今から6年前のことだ。

 頼った先は、アメリカにある、日本人女性向けの精子提供や卵子提供、代理母出産のエージェンシー(仲介業者)。なぜ透子さんは、結婚より出産を選んだのか、そしてなぜ海外に行く必要があったのか。

 もともと透子さんは、女子高と女子大で気の合う女友達に恵まれた学生時代を過ごし、男性に頼ることや、男性に積極的に関わりたいという意識が希薄なまま社会人となった。

交際で“可愛さ”を求められる感じが楽しいと思えなかった

「男性とお付き合いをしてみたこともありますが、“可愛さ”を求められる感じが楽しいと思えず、いずれも長続きしませんでした」(透子さん)

 だが、20代後半で立て続けに祖父母と父を病気で亡くしたことが大きなきっかけとなり、透子さんは「家族が欲しい」と切実に願うようになる。出産への特別なこだわりはなかったものの、子どもを育てたいという気持は漠然と抱えていたという。

 そこで透子さんは「子どもを持つなら先に結婚しないと」と、婚活に精を出すが、この人と思う相手にはなかなか巡り合えなかった。

「結婚したら家事はよろしく」

「“結婚したら家事はよろしく”という前提の方が多かったり、相手の転勤によって自分が仕事を辞めることを求められそうになったりと、婚活中は常にモヤモヤしていました。自分の相手を見る目に問題があるのではと悩んでいたところへ、身近な夫婦にDV騒動が持ち上がり、“結婚相手を間違えると大変なことになる”と、次第に結婚への期待より恐怖が上回るようになってしまって。子どもができなくても一緒にいたいと思える人に出会える気もしなくて、婚活はやめることにしました」(透子さん)

 結婚は諦められても、卵子の老化というタイムリミットは刻々と迫る。特別養子縁組も検討したものの、未婚者は条件外であることが分かり、出産への焦りが透子さんの中で募っていた。