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「居酒屋」は豊島屋が発祥とされる

――革新的な販売方法とは?

木村 元々日本ではお酒は買って家で飲むものでしたが、酒造さんごとにだんだん味の違いが出てくるようになると酒屋で試飲をしたいという声も出てくる。そこでつまみの田楽も出すようになったのが豊島屋です。「居酒屋」という言葉が初めて登場した数十年前に、「豊島屋が面白いことを始めた。軒先につまみを出して酒を勧めている」という記述の文献があって、豊島屋が居酒屋の発祥ではないかと言われているんですよ。革新的な販売方法が評判で「江戸商人十傑」にも選ばれていて、8代将軍・徳川吉宗がおこなった享保の改革では、米の価格相場を調整する重役を担ったそうです。

――江戸時代の文献には度々豊島屋が登場していますね。

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木村 「江戸名所図会」という江戸時代に描かれた、今で言う観光ガイドブックがあるのですが、そこには「鎌倉町 豊島屋酒店 白酒を商ふ図」として、3月のひな祭りの日に白酒を販売している様子が見開きで紹介されています。豊島屋酒造では今でも白酒を造っていますが、江戸時代はあまり女性がお酒を飲める時代ではなかったんです。それでも1年に1回くらいは女性がお酒を飲んでもいいじゃないかと私のご先祖様は考えて、女性をイメージして白くて甘いお酒を造ってみたらそれがすごく好評で文化として定着していったようです。

©山元茂樹/文藝春秋

――400年の歴史ある会社で新しい商品を作り続ける理由は。

木村 お酒ってある意味ロマンだと思っていて、最新の技術を使えばいろいろとおいしいものが作れると思っています。でも、これまで先人たちが積み上げた苦労や努力の積み重ねを、お酒で味わうことで楽しむ方もたくさんいらっしゃると思うんです。なので私は「温故知新」を仕事のテーマにし、古いものを大切にしつつその上に新しいものも作っていこうという気持ちで、日々取り組んでいます。