さらに驚かされたのは北朝鮮での話。1995年、北朝鮮の平壌で行われた興行は、力道山や拉致問題など様々な思惑が絡んだなかで行われたが、2日間でなんと38万人を動員。猪木は2日目にリック・フレアーと戦い、延髄切りからの体固めで勝利した。
「プロレスをまったく知らない人たちを38万人も集めて、大歓声を巻き起こしたわけです。猪木さん、その時のことを『言い方はアレですけど、自分の手のひらに数十万の観客を乗っけたような感じで』とおっしゃったんです。スケールは違いますけど、寄席芸人のベテランのような、お客様を手玉に取っていく感じが伝わってきました。正真正銘のエンターテイナーです」
イベントで『1、2、3、ダーッ』をやると100万円
だがこの対談、途中で思わず笑ってしまう箇所もある。
「私が噂に聞いていた『1、2、3、ダーッ』をイベント出演などでお願いすると100万円というのは本当なんですか? と質問したんです。そうしたら、『ビンタも100万なんじゃないかな』と答えてくれるという(笑)」
対談から5年が経過しているが、伯山は別れ際の猪木と交わした会話も鮮明に記憶している。
「最後に、猪木さんは『伯山さん、今度は一緒にうまいもの食べに行きましょう』と誘ってくださったんです。うれしかったですね。しかも、それが社交辞令じゃなかった。体調が悪いのに、私が行きたいですといえば、ちゃんと時間を作ってくださる雰囲気でした。残念ながら実現はしませんでしたけど……。最後の最後まで『アントニオ猪木』としての姿を見せて下さったことが、本当にうれしかったです」
このとき、伯山と猪木は初対面だったが、最後に猪木は胸襟を開いている。
本音を「話してしまう」対談相手たち
この対談集が不思議なのは、なぜか、対談相手がふだんはメディアに話さないようなことまで伯山に「話してしまっている」ことだ。
「北方謙三先生との対談では『伯山、お前、他人に興味ないだろ』と、バッサリ言われました(笑)。それなのに結果的には、なぜか本音を引き出せたかな、と思います。どうしてかと考えていくと、私自身が功成り名を遂げた人たちの歴史、ヒストリーに興味があったからかもしれません。そこで相手の方と『調和』が起きて、普段はなかなか口にしないことまで、話してくださったのかなとも思います」