11日から新宿末広亭で12月中席が始まっている。主任は講談師の神田伯山だ。

「“伯”はドル箱ですよ」

 伯山のことを“伯”と呼ぶのは、末広亭の席亭、真山由光氏だ。

ADVERTISEMENT

 末広亭は1946年、太平洋戦争が終わった翌年に開業。真山氏はその末広亭の初代席亭北村銀太郎の孫、そして2代目席亭の杉田恭子の息子にあたる。

新宿末廣亭の真山由光席亭 ©文藝春秋 撮影・佐藤亘

「今年の12月中席は、1階席を指定席として前売りとしました。伯山がトリを取るとなると、札止めになることが多かったんでね。ウチも伯山が5人いてくれりゃ、楽なんだけどな」

 そう苦笑いする真山席亭は、「コロナでえらい目に遭いました」と振り返る。繰り返される緊急事態宣言のなかで客席は閑古鳥が鳴いた。

「正月の初席、これはいつも賑やかなもんです。ところが、2021年の正月は10人くらいしかお客様がいなかった。これはショックでしたね。もともと、ウチのおふくろが席亭を務めていた1990年代も経営は厳しかった。1999年におふくろが亡くなり、私も末広亭の経営に参加することになって、ちょっとずつ、ちょっとずつ、経営は上向いていって内部留保も貯まってました。ところが、コロナですべて吐き出してしまった」

 苦境のなかで、2021年5月には上野・鈴本演芸場、浅草演芸ホール、池袋演芸場、上野広小路亭と5軒連合のクラウドファンディングを実施。総額1億円以上が集まり、末広亭はおよそ2000万円の援助を受け、なんとか生きながらえた。

「ありがたかったですね。なんとか客足も戻りつつありますが、毎月赤字の自転車操業であることに変わりはないです」

「大したことやってないです。俺は飾りだな(笑)」

 そもそも席亭とは、どんな仕事をしているのだろうか。

「大したことやってないです。俺は飾りだな(笑)」

 そう謙遜するが、誰が高座に上がるのか、それを決めているのは真山席亭である。

 

「毎月10日までが上席、20日までが中席で、30日までが下席で番組が変わっていきます。だから1年で三十六席あって、昼夜の番組をこしらえていく。それが仕事です」

 三十六席、誰がトリを取るのか。そして落語家、講談師、色物芸人で誰がどの順番で高座に上がるのか、「顔付け」を決めていく重要な仕事だ。