「噺家は3日やったらやめられないって言うでしょ。ある意味、楽な商売なんだよ」
「あいつら、面白いんだよ。感覚が優れてる。連中が二ツ目時代に、のびのびと出来たのは、自由な芸協だったからだろうね。本格を重んじる落語協会だったら、また育ち方が違ったんじゃないかな」
落語の世界で興味深いのは「育成」だ。前座として4年修業し、二ツ目になってからおよそ10年で真打に昇進する。真山席亭は言う。
「噺家は3日やったらやめられないって言うでしょ。ある意味、楽な商売なんだよ。ゆるい世界でのんびりやっていけるんだけど、頑張る奴とそうでない奴は、そりゃ差はつきます。60歳、70歳になっても下手な人は下手なんだから。面白いのは『どうにもならねえ。コイツはダメだな』と思っていたのが化けることがあるってこと」
落語家が化けられるのも、末広亭をはじめとした寄席があることが大きい。高座は修業の場であり、成長を促す場所である。
「弱い商売だと思う。このままじゃ、ジリ貧ですよ」
しかし、経営が厳しい状態は続く。
「弱い商売だと思う。このままじゃ、ジリ貧ですよ。いま、末広亭の理事は4人いますが、みんな70歳を超えてます。倅たちの世代が3人、経営に入ってますが、さて、どうなっていくか。寄席経営ってのは金持ちの道楽だったらいいけど、現実には従業員を養わなきゃいけないからね」
今年も経営は苦しかったと振り返る。
「助けてくれたのは喬太郎であり、一之輔であり、伯山です。彼らは独演会で何百人とお客さんを呼べる。でも、私が頭を下げたら忙しいのに空けてくれて、トリの高座に上がってくれるんだ。しかも代演はなく、十日間すべて出てくれる。出てもらってることに感謝ですよ」
芸人に出てもらわないことには商売は成り立たないが、席亭はその芸人たちの実力に目を光らせる。
興行主であり、芸の目撃者でもある。
席亭という商売も、3日やったらやめられないのかもしれない。だからこそ、真山席亭は末広亭の灯を守り続けているのか。